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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case01.断罪する悪役令嬢と突然の求婚者
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1-5.罪深きドレス

そんな彼女に、クロエはただ微笑んだ。


「その水色のドレス、とても素敵ですね」


クロエが言うと、彼女は訝しげに頭を下げた。


「え? ……えぇ、ありがとう……ございます?」

「あなたの大好きな婚約者様から贈っていただいたと聞きましたわ。特注だそうですわね?」

「えぇ、そうですわ。私も行って、レースから布から、一緒に選んだものです。それが何か?」

「今日、初めて着ていらしたの?」

「当たり前です。初めて着ましたわ」


クロエは大げさに首を傾げてみせた。


「……変ねぇ。同じドレスを着ているあなたを、見たことがある方がいらっしゃるのよ」

「まさか、そんなはずありませんわ」

「そうかしら? お忍びで街へいらして、楽しく買い物をなさっていたと聞きましたわ。ポールと話してる姿も見たそうなんですけど……」

「ありえません!」

「まぁ。でもね、あなたの婚約者様もご一緒だったんですって。ねぇ、ポール?」

「……えぇ、そうでした。そちらの若様もいらっしゃった……」


ポールの呆然と呟く言葉を聞き、みんなが弾けるように、隣の男に注目した。


ようやくたどり着いた。本日の大本命、ニック・ブリッジだ。彼は先ほどの令息とは違って、マリアンヌと距離を置いている、とされている。彼は急に話題を振られ、苦笑いをした。


「私が? まさか」

「とっても不思議ですわね。私ね、不思議で調べましたのよ。そうしたら、驚くべきことがわかりましたの。まさか、あなたが同じ水色のドレスを二着注文していただなんて、知りませんでしたわ。今までも、同じように二着ずつだったんですって。あなたの馴染みのドレスメゾンで世間話に聞きましたのよ。届け先はいつも、同じところ。あなたの婚約者のこちらの令嬢と、」

「クロエ・ソーンダイク令嬢! あなたを名誉毀損で訴えますよ!」

「えぇ、どうぞ?」


言葉を遮ったニックに、クロエがにっこりとすると、水色ドレスの令嬢が彼の服の袖を強く掴んだ。


「二着って? 私の家と、どこに送っているの? 街を散策? 誰と? 私が行きたいって言っても、絶対行ってくれないのに」

「ソーンダイク令嬢のでたらめに決まっている! ご自分が窮地に陥ったからといって、嘘は良くないですよ、令嬢。それに、なんの証拠があるんですか?」


ニックのさっきまでの威勢の良さはなりを潜め、笑顔が引きつっている。もちろん、伝票はない。証拠らしき証拠はない。だが、自慢話は避けられない。いくらだって話してくれるものだ。


クロエは笑顔を絶やさず続けた。


「そうそう。ポールのよく行く居酒屋のウェイトレス、他にも何人か信奉者がいらっしゃってね。なんと、一番最近では、貴族から水色のドレスが贈られてきたのですって。とっても愛されてるっておのろけをたっぷり聞かされましたわ」

「……なんだって?」

「それに、あなたのように、婚約者様と仲睦まじく、真面目そうな方が、マリアンヌ様にまでお声がけするなんて、全く考えも及びませんでした。とても残念です」

「クロエ様……それは……本当ですの?」


言われ、クロエはいかにも残念そうに、令嬢の言葉に頷いた。


あの令息をそそのかさずに何も起こらなかったら、こっちだって何もしなかったものを。


クロエは被せるように続けた。


「ニック・ブリッジ様、あなたって本当に、欲張りなんですね。私、驚きました。それに、あの純粋な令息をそそのかすなんて、ご自分の手を汚さないように、細心の注意を払っておいでで」


クロエはにこりと微笑んだ。


「あなたの目的は、まず、ウェントワース侯爵家の醜聞です。ポールのことから、マリアンヌ様、そして私……この家をめぐって金銭トラブルや裏切りや女性問題が出てくれば、印象は悪くなりますわね。評判も悪くなる。可愛さ余って憎さ百倍とはこの事ですわね。あなたはウェントワース侯爵を尊敬しておりましたが、あなたの父親にとっては、目の上のたんこぶで、いつも悪口を聞かされておりましたし……それに、あなたの憧れのルーカス様は……その……」


クロエは言葉に迷った。あの怠け者をなんと称したらいいのか。


「えぇと……出不精で……人付き合いが悪いにもかかわらず、優秀で誰からも評価されて、それがお悔しいのです。つまり、嫉妬です。そして、横恋慕、でしょうか? お二人がうまくいくことを祈りながらも、ご自分がマリアンヌ様を手に入れたくて仕方なかったのですわ。今回、めぐりめぐって、失意のマリアンヌ様をお助けして、あわよくば、などと考えてらしたのでしょうが、そうは問屋が卸しませんわよ」


彼女がニックを見た。彼は蒼白になり、膝をついた。気持ちを立て直す前に畳み掛ければ、こんな男、すぐに白状する。……こんなこと、慣れたくないんだけど。


「私が……やりました……」


ニックの言葉に、クロエは息をついた。だが、ここまでだ。退路を全て断つわけにはいかない。


「白状してくださって、よかったですわ。幸い、まだ侯爵夫人には知られておりません。だから、あなたさえよければ、私に対する不愉快な態度はなかったことにしてもいいんですのよ?」

「! 本当ですか!」


ニックが顔をパッとあげ、顔が希望に満ちて輝いた。


単純ね。無かったことになどできるはずがないのに。


これだけの人数が見ているのだ。おそらく彼は、かなりの家から締め出しを食らうだろう。きっと、彼が思うよりずっと、厳しい対応になるはずだ。親にも伝われば、勘当されるかもしれない。だが、そんなことはどうでもいい話だ。





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