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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case06.探偵ではない探偵と助手にしてもらえない助手
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6-3.相談依頼

「まさか! そんなロマンチストじゃありませんわ。外商のついでです」


だいたい、母親が取り出して引き出しからなくなっても、しばらく気づかなかったくらいの品物なのだから。


「いやぁ……? だって、でも、ねぇ?」

「そうですわ。『ついで』なんて、それこそ、想ってもいない方を思い出したり、その方のために買ったりしませんもの」


エマが頷く。だが、クロエは肩をすくめた。


「知り合いの女性が、家族の他に、私しかいなかったからだと思いますわ。ベルビン様も知っていらっしゃると思いますが、本当に面倒くさがりですし、友達がおりませんのよ。その上、思いつきで行動してしまうようですの。ですのに、評判が良くって、本当に気に入りませんわ」


途中からでもいいから、マリアンヌのために買えばよかったのに。すると、エマは優しく微笑み、クロエの手をゆっくりと取った。


「心配ですのね。有能で素敵な婚約者さんが」

「えぇと……そんなことはないんですが……」


困っている、といったほうがいいだろう。ちらりとベルビンを見たが、なんとも言えないいい笑顔をクロエに向けてきた。エマはルーカスの困った性格をよくは知らないらしい。


だが”有能”なおかげで、ルーカスは代理で周遊を任されており、その仕事を難なくこなしていくおかげで、クロエはこうして珍しい花を見ることができるのだ、それはありがたい。


自分にとっては都合のいいことだが、こんな風に誤解されるようでは、ルーカスにとってはどんどん都合の悪いことになってやしない?


「それより、ルーカス様はどちら? もう来てもいい頃だと思うけれど」


エマがキョロキョロしていると、ルーカスが、アッカーソン夫妻の友人、フィンケ夫妻と談笑しながら温室に入ってくるところだった。ルーカスは夫人をエスコートし、だが主人の方もしっかり立て、非常に楽しそうだ。夫人のリラックスした明るい笑顔はまるで親子のように親しみがあり、ルーカスが丁寧に会話をしてきたのがわかる。こうしてみると、面倒臭がりにも人任せにも見えないのだけど……


「クロエ!」


ルーカスがクロエの姿を見つけ、さっと夫人に断りを入れると直ぐにクロエの元へ駆けつけた。そして、クロエの手を取ってにっこりと微笑んだ。輝かんばかりの美しさに胸焼けしそうだ。


「先に来てるなんてひどいじゃないか。置いてけぼりをくらってしまって、ローゼ様とベルトルト様に慰めていただいたところだよ」


ベルビンが目を丸くしている。本日二度目。おそらくクロエ自身も目を丸くしてるんだろう。こう見ると、まるでルーカスがクロエしか目に入っていないように見える。


ローゼ・フィンケが朗らかな笑顔で追いついてきた。


「あなたの将来の旦那様は、本当に素敵な方ですわね、クロエ様! とても丁寧でお話が上手で。もうすっかりのろけられてしまいましたわ」

「はぁ……?」

「クロエ様もご相談にのってくださるとか。以前、ベルビン様の相談も解決なさったと聞いて、とても心強く思っております」

「へ?」

「実は、私どもの家でも困ったことがありまして、何かお知恵を拝借できないかと思いますの……」

「知恵……?」


クロエはゾッとしてルーカスを見た。ルーカスは穏やかな笑みで頷いた。


「クロエ、実は、フィンケ夫妻から今度改めてお会いしよう、と誘っていただいたんだ。相談に乗って欲しいことがあるんだって。いいかい?」

「え? 何? 何の?」

「まぁ、ローゼ様、何かありましたの?」


心配そうなエマの声に、クロエは少しだけ冷静になった。嫌がっている場合ではなかった。異国の地で、こうして植物に触れ合う機会をもらっているのだから、少しはルーカスに付き合わなければ。


ローゼが小さくため息をついた。


「困ったことですのよ。最近、トラブルが続いておりますの。……侍女が喧嘩をしたり、使用人が盗みを働いたり、……でも私たち、待遇だって悪い方ではありませんわ。使用人たちの話にも耳を傾けておりますし、原因がさっぱりわかりませんの」

「まぁ……なんてことでしょう! でしたら、すぐにお話いただいて構いませんわ。日を改めてなんて、お時間がもったいない! 私たち、席を外しますので」


エマが同情するようにローゼの肩に手を置き、優しく言った。ベルビンが頷く。


「そうだな。四人でお話いただくといいだろう。みなさんは応接室でゆっくりお話ください。僕たちは終わるまで待っておりますから」

「そんな、申し訳ありませんわ」

「でも、善は急げです。解決は早いほうがいいですわ」


ローゼとベルビンとエマが前向きに話を進めている。視線を彷徨わせると、ローゼの夫、ベルトルトが渋い顔をしているのが見えた。


ちょっと待って。クロエは思ったが、口を挟めそうにない。諦めて、ルーカスにこっそりと伝えることにした。


「ルー、ひどいわ。私は何もできないのに。それに、ベルトルト様が嫌そうになさってるもの」

「大丈夫。クロエなら解けるよ。ベルトルト様は君を信頼してないわけじゃない。不安なだけだよ」


ルーカスの能天気な笑顔に、思わず腹から殴りそうになり、クロエは思いとどまった。外交中だった。国の代表で、視察中で、喧嘩など身内でしてる場合ではない。仲良しアピールをせねばならないのだ。


そして、こうやって相談に乗ったり……


嘘だ。面白そうだからに決まってる。トラブルなんて、知らないわよ!


だいたい、マリアンヌも絡んでないし、知らない人ばっかりなんだから、私にわかるわけがないじゃない!


クロエの言葉にならない声は届かず、クロエは応接室に移動することになったのだった。




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