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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case06.探偵ではない探偵と助手にしてもらえない助手
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6-2.信頼の置ける友人

「クロエ様、ありがとうございました」


エマが丁寧にクロエの手を取った。


「想像はできましたのよ、きっと勘違いしていたんだろうって。でも、よりによって、ピンクマリアンヌだったことが、とても不安だったのです。だって、マリアンヌ様はとてもお可愛らしくて、私もファンになってしまったくらいなんですから。それに、私の幼馴染で、信頼していた友人でさえ、マリアンヌ様を手に入れるために、自分の婚約者を陥れようとしていたのですもの……そんなひどい男だったなんて、私、知りませんでしたわ。話し合うこともできないなんて、人間性を疑います。その節は、クロエ様が収めてくださったそうで、本当に、感謝の念に絶えません」


エマが心底信頼する瞳でクロエを見た。クロエはたじろぎ、慌てて頭を振った。


「エマ様……いいのです、そのことは。たまたま、ですから。マリアンヌ様の方が大変ですわ。そうやって、知らぬうちに男性に好かれてしまって、勝手に争奪戦を繰り広げられているそうですの。本当なら、ルーカス様が結婚なさって、マリアンヌ様をお助けするはずでしたのに……困った方ですわ」


マリアンヌは天使のような令嬢だと噂される、今一番美しく清純な令嬢だ。それゆえなのか、マリアンヌはどこでも賞賛され非難されてしまう。ルーカスだって評判は良かったのだから、二人が結婚すれば安泰だったのに、どうしてこうなったんだろう。


「まぁ。ご自分の愛を手放してまでマリアンヌ様へのお心遣いまでなさるなんて、クロエ様はお優しい方ですのね。悪役令嬢だなんて、不届きにもほどがあります。クロエ様はご自身の愛を貫くべきです。他人の言うことに振り回されてはなりませんわ」

「他人の?」


クロエは首を傾げた。


他の人の意見はクロエより後から知ったことだ。それに、悪役令嬢の噂を放置していたのは自分だった。牢に繋がれない限りは、どうでもいいことだと思っていた。クロエはルーカスとマリアンヌに結婚して欲しいと思っていて、ルーカスと結婚するはずなど、なかったのだから。


「そうですわ、クロエ様。貴族にとっては噂も恐ろしいものですもの……そういったしがらみを越えて、ルーカス様がご自分の愛を貫いたこと、私、感激しておりますの。恥ずかしながら、主人に言われるまで、あなたのことも誤解しておりましたし、ルーカス様にも不信感を抱いておりました。そんな私たちを受け入れてくださって、寛大な心に感謝しております」


エマがそっと目元を拭った。ベルビンがエマの肩を優しく叩く。エマは自身の夫に頷いた。


賛美が過ぎませんか。でもここで否定することは、彼女たちの好意を無駄にすることだ。それは断じてしてはならない。


「……よくわかりませんわ。もちろん、ルーカス様には感謝しております。他国へ令嬢が一人で出かけるのは、とても難しいことですもの。こうして、他国で実際に、植物に触れることができて、とてもありがたく思っております」


このまま、ここに置いていってくれないかな? アッカーソン家の温室で働かせてもらえないかしら。


クロエが微笑むと、すっかり感じ入ったように、エマは、ほう、とため息をついた。


「ルーカス様は、本当に素晴らしい方ですのね。植物が好きなあなたのために、こうして、私と話す機会を与えてくださったのでしょう? それに、何度も言うようですが、その素敵なパリュール、ため息が出そうにお似合いですわ。小さなダイヤモンドも、散りばめられたクロエ様の瞳と同じアイスブルーの宝石も、とってもお似合いです。ルーカス様の深い愛情がとてもよく伝わります」


愛情? 確かに、探偵への愛は間違ってない。むしろあれは、もう執念では?


「まぁ、とても高価ですから……でも、本当は、宝石一揃いより、珍しい草花の方がずっと嬉しいんですの。ですから、この温室を作ったエマ様の方がずっと素晴らしいです」

「このパリュールをもらっても……花の方がいいって?」


ベルビンが思わずといった様子で口を挟み、エマに睨まれた。クロエはその様子に微笑み、同時に、ルーカスの母、レオナの話を思い出してくすくすと笑った。


「そうは言いましてもね、ルーカス様だって一度に買って下さったわけではないのです。それに、買ったからって下さったわけでもないの。毎年一つずつ選んで、買っただけで、机の引き出しにしまい込んでいたそうなんです。ルーカス様のお母様が、こっそり取り出して私にくださっても、本人は気づかなかったくらいで。そんな風に、忘れてしまうものなんです。ですから、たまたま揃っただけで、パリュールのつもりなんて、きっとありませんでしたのよ」

「……五つ揃ったらプロポーズしようと? 五年もかけて?」


目を丸くしたベルビンに、クロエは思わず吹き出した。



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