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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case06.探偵ではない探偵と助手にしてもらえない助手
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6-1.温室で見知らぬ植物に思いを馳せ

夜の温室はとても静かで綺麗だ。


クロエは、温室の天井から透けて見える夜空を見上げながら、思いを馳せた。


この温室に集められた植物たち以上に、この国にはたくさんの、クロエの知らない植物があるらしい。


もちろん、事典に収められているものはこの国の書物を手に入れれば確認できるが、クロエが気になっているのは、誰も知らない植物である。今後、今いる都市部ではなく、地方の山間部などへ向かえば、出会える可能性がある。プラントハンターを生業にすることはきっとできないだろうが、それに近い体験ができるだろうし、その機会を与えてくれた、幼馴染のルーカスには、本当に感謝しかない。


例え、彼の目的が、クロエを探偵にしたいだなんて、まるで現実的でないことでも。


「ルーカスの見立ては、本当にいつもいいですね。そのパリュールはとてもお似合いですし、細工も素晴らしいです」


はす向かいに立っていたベルビン・アッカーソンが、クロエに話しかけてきた。


彼は、クロエたちの国から派遣されているこの国への駐在大使だ。妻を紹介するのに、他の友人とのプライベートな夕食会への扉をクロエにも開けてくれたのだった。


ベルビンの友人、フィンケ夫妻は二十歳年上だったが、植物に造詣が深くて話が合い、すぐに意気投合した。クロエにとっては非常にためになる会食だったので、クロエはさらに大満足だった。


その余韻に浸っていたクロエは、一瞬、何を言われているかわからず、鸚鵡返しに聞きかえしそうになり、思いとどまって微笑んだ。


パリュールとは、高価な宝飾品を一揃いと見立て、複数作られたセットのことだ。彼は、今日、クロエがつけているこの揃いのジュエリーを褒めてくれているらしい。


「? ありがとうございます。それより、この温室は素晴らしいですわね、エマ様。エリアごとに、植生の似通った植物が植えられて、移り変わって……それに、見やすくて、わかりやすいです。とても参考になります。国に帰ったら、早速、うちにも欲しいですわ。でも、できるかしら……?」


すると、ベルビンの妻、エマは嬉しそうに頬をほころばせた。


「褒めていただいて光栄です、クロエ様。付け焼き刃ですが、この国の国立植物研究所で教えていただきましたの。我が国は、まだ植物研究は遅れていますからね。クロエ様は本当に植物研究に興味がおありですのね。先ほどの食事でのお話、素晴らしかったですわ。私も、主人とここでの任務が終わって帰りましたら、クロエ様のお手伝いをさせていただきたいです」


エマとクロエ、二人の共通点は、ズバリ、植物だ。どちらも、植物愛が深く、夕食時には大いに盛り上がった。……ルーカスとベルビンを除いて。そして今もまた、話は尽きなかった。


「まぁ、そんな。私なんて、知識に偏りがあるし、バラバラで、お恥ずかしいです。エマ様の方が、ずっと深くご理解なさってて、羨ましいです。それに、商品としての特別な草花の品種改良のお話、とても興味深かったです。我が国でももっと売られるように、私もご協力したいと思いますの」

「まぁ! ありがとうございます! 侯爵夫人になられるクロエ様にご協力いただけるなんて、これほど心強いことはありませんわ。まだまだ女ということで、商売では甘く見られがちで……もう少し、仕事内容も見ていただけるといいですのに」

「本当です!」

「新しく、美しい花は、需要が高いですわ。香りが良いものも、売れるでしょう。そしてそれは、儚いからいいのです。だから新しく求め、決して飽きられることはありません」

「ええ、女性の美への探究心は驚嘆すべき世界です。ことに、満足を知りませんから。いっときでも、最高の美を手に入れたいのです。酔いしれ、うっとりしたいものです」

「そうなのです! だから、愛する人の愛する花を、間違えるなんて、言語道断ですわ」


言うと、エマはベルビンに振り返った。具合の悪そうな顔をし、ベルビンは頭を下げた。


「ラナンキュラスだったのは思い出したよ。新しいヒナゲシの名前なんて、知らなかったんだ……本当だ、許してくれよ」


先日ベルビンと知り合ったのは、まさしく、エマの好きな花を間違えていたことに気づかず、エマを怒らせていたことだった。それをクロエが指摘して、ベルビンは花を思い出し、謝罪したのだった。


「わかっておりますわ。でも、不安だったのです。次からはなしですよ?」

「仲直りができてよかったですわ」


クロエが言うと、エマはうふふと微笑んだ。





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