表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case04.舞踏会へ行く探偵と気を引きたい助手
35/157

4-5.探偵への甘いお誘い

「ところで、ねぇ、クロエ。いつもどうやって推理しているの?」


ルーカスの甘えたような声に、思わずどきりとする。ルーカスは無防備になりすぎよ。ただの幼馴染なのに。


「推理? 推理じゃないわ。あれは事実よ」

「じゃ、どうやって事実がわかるの?」

「どうって……」

「母上が切らずに大切にしていたバラの花を、庭師のポールが切ってしまっただろう? あれは、どうして、あの男だってわかったの?」

「あれは……えーと、だから……」


クロエは街市場の花屋を回るのを日課にしている。その中でも、貴族の庭で咲いている最高級の花たちが、切り花として売られている店があった。貴族が飽きた花、綺麗な中でも間引いた花、そういったものが売られ、肩書きとともに人気がある。ちょくちょく覗きながら、各貴族の庭の花を楽しんでいるのだが、最近、ウェントワース家の花がやたらと多いことに気がついた。


品評会などで有名なウェントワース家の花は高値でも飛ぶように売れる。これは、ポールが儲けているな、と思ったのが最初。それで、しばらく、ウェントワース家に行く時は注意深く見ることにしていた。


それとは別に、いつもの通り、クロエの評判は悪い。でも実際に無意識でやってしまっているかもしれないし、どっちなのかわからないため、一つ一つチェックする必要がある。それで、いつも、出られるすべてのお茶会での会話に耳を傾けているのだ。


一番大切なのは、マリアンヌに関しての話だ。クロエの話はこじつけで問題ないが、マリアンヌの中傷は困ったことになる。特に、クロエが自分ではないと反論が証明された時に、マリアンヌに罪を着せられるような、二段階になっているから。


そして、誰かが言うのだ。マリアンヌが決して言わないようなことを。まるでマリアンヌがクロエに言わされたかのように。


でもそんなことはありえない。マリアンヌはクロエと対等にいつも話していて、どちらかというと、好意的だからだ。


でも、世間的にはそうは見えない。クロエは人付き合いが苦手だから。そんなクロエがどう思われようと、どんな対応をしようと、自分には火の粉がかからないように考えてるんだろう。


本当に、最初に思いついた人は、よく考えたものだ。


「……だから、マリアンヌ様が私に命令されて花を切らなきゃならないなんて、そんなくだらないデマを聞いた時に、何か企んでるな、と思ったの。誰が言ったのか、言ったと見せかけたのか、よーくチェックしたのよ。性格や背景をたどれば、動機もわかるし、だいたい、いつそれが起こるのかも想像つくから……」

「ブラボー!」


クロエがそこまで言うと、ルーカスは叫んで私をぎゅっと抱きしめた。


「え、ちょ」

「ほらやっぱり、悪役なんてやめて、一緒に探偵しようよ!」


そして、クロエの頬を撫で、顔をうっとりと眺めた。息がかかるほどに近く、唇が重なりそうだ。


顔、近いです。


「国に帰ったら、依頼を受けよう。僕がしっかりと助手を務める。きっといるよ、何か調べたいことがある人が」


場当たり的な推理なんてできない。ましてや、依頼なんて。


クロエはルーカスの腕の中で、彼を睨むようにじっと見た。


「ルーカス、誤解があるようなので言っておきますが」


馬車が停まった。


「着いたみたいだよ」


そして、馬車のドアが開いた。


「ようこそお越しくださいました。ウェントワース侯爵家ご子息、テンバリー伯爵ルーカス・モファット殿とその婚約……し、失礼いたしました!」


バタン、とドアが閉まる。


何?


そこでクロエはハッと気がついた。ルーカスが自分を抱きしめている! それに顔があまりに近い。


「ル、ルーカス、ちょっと、離してくださらない?」

「いやだ」

「でももう降りなきゃ」

「誤解って何? 僕とクロエが婚約者ってことは事実だよ?」

「探偵の話よ。婚約してることは関係ないでしょ。今日は何しにいらしたの? あなたのための舞踏会でしょう?」

「僕と君のためだ、クロエ」

「ええ、ええ、そうですわね。いいから、離して!」


クロエが言うと、ルーカスは仕方なさそうに腕を緩め、クロエの頬に軽くキスをした。そのまま唇が重なりそうになり、クロエは慌ててルーカスの顔を押しとどめた。


「ルー!」


真っ赤になったクロエに、ルーカスは嬉しそうに微笑んだ。


なぜよ。


クロエが思っているうちに、ルーカスは爽やかな笑顔で手を差し出してきた。


「行こう、クロエ」

「……ええ」


幼い頃と同じように。


ルーカスが一番で、憧れて、会うのが楽しみで、会ってからはもっと楽しかった、あの頃と。


思い出してしまうじゃないの。想い出は想い出で、今のことじゃないのに。まるであの延長かのように、振る舞うなんて。こちらの心はもうヨレヨレだ。


クロエは数時間ぶりに馬車から出て、ようやくルーカスから解放されたのだった。








case04 END




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ