4-4.密室での攻防戦
「でも方法なんて、それだけじゃないでしょう。仕込まれているのを知らずに、渡してしまったとか……お菓子とか、お茶とか……そうなると、食べてからすぐに影響があるわけじゃないそうだから、食べてから馬車に乗って、倒れる、ってこともあると思うんだけど」
私の言葉に、ルーカスはかすかに頷いた。
「知らずに、か。もし指輪の毒を使ったとして、誰かから言われたというのは、どうやってわかりそうかな?」
「その人の行動を遡ってチェックするしかないわね。自分の勘違いだと思ったり、相手を好ましく思っていると、黙っていたりすることはあるみたいだけど……」
いったいこんな話を聞いて、どうするつもりだろう。私が首をかしげると、ルーカスはまた魅惑的に微笑んだ。ひえー、心臓がいくつあっても足りないわ。
「ありがとう、助かった。こっちに来る前、うちの領地で、まさしくそういう事件があったんだ……馬車の中で男女が二人きり。でも、片方の男性は死んでしまった。男の方は、どうやらもともと、体が弱かったそうなんだ。彼女は何もしてないと言っていて、確かにそうなんだけど……怪しくて。自警団からね、参考になる話があれば聞きたいと言われたんだ」
「まぁ、そうだったの」
「だから、探偵として信頼できる人に聞いてみるって言ったんだ」
いや、だから、探偵じゃないって。
「話を聞くって、ルーカスが信用あるからでしょう、”探偵”ではなく」
「でも、彼らは興味津々だったよ」
だから、それは”ルーカスが興味のある探偵”だからであって、”ただの探偵”そのものに興味はないでしょう。
クロエは言おうと思ったが、諦めてため息をついた。ルーカスの思い込みは、おいおい訂正していくしかない。
「……参考になった?」
「もちろんだよ。舞踏会が終わって、視察邸に戻ったら、すぐに手紙を書こう」
ルーカスは領地の指揮官にも、自衛官にも、顔が効くし、尊敬されていて影響力がある。その人たちに自分の付け焼き刃の知識を伝えられるのは気が引けたが、ルーカスだってクロエをヨイショするためだけにこんなことはしない。ちゃんとルーカスなりの判断があるということなのだろう。
「戻ってからでもいいんじゃない?」
「僕たちの周遊はこれだけじゃない。もっと、いろんなところへ行くんだよ。全てついてきてもらうからね」
「ええ、そのつもりだけど……お仕事、忙しいのね」
気遣いの言葉を使いながらも、クロエは声が弾むのを感じた。
いろんな土地、いろんな植物。一体どんな子に出会えるんだろう? 楽しみでたまらない。
ルーカスは目を細めてそんなクロエを見た。
「うーん、ていうかね、ずっと言われてたことをサボってただけなんだ。父上がさすがに幾つか仕事を引き受けろというからさ。条件に合うのを選んだだけ」
「大丈夫? 外交は難しいんじゃない?」
今更だけど。特に人付き合いが苦手なルーカスには。
「そうだね? でも、君と一緒なら大丈夫さ。何しろ、僕の惚れ込んだ探偵なんだから。相手の心理を読むことなんて、お手の物だろう?」
なんの話よ。多少、先を読むことはできるようになったけど、心理なんて読めない。クロエは困惑した。それに、ルーカスはクロエを買いかぶっている。
だいたい、探偵って、一体何をすればいいの?
クロエはそんなことだって知らないのだ。
最近、ルーカスは探偵小説にはまっていることは知っていた。人づてに聞いたことがあるし、実際本人からも本を勧められた。さらに、今回の旅で、ルーカスから散々聞かされ、すでにうんざりしてはいるけれど、要するに、事件を解決する人物のことだ。だが、ルーカスは探偵助手になりたいと言っている。
本人曰く、探偵はクロエの方が向いているとのこと。それというのも、ここのところ、クロエが、自分に着せられそうな濡れ衣をはらすため、その場で犯人を当てているのが原因だ。冤罪を着せられないようにしているだけなのだが、ルーカスにはそれが華々しい探偵の才能に見えるようだ。
ルーカスに言われて、改めて幾つか探偵小説を読んだけれど、圧倒的な推理力とカリスマ性で解決していて、到底真似できそうにない。クロエにできるのは事前チェックと回避だけ。積極的推理なんてしたことがないんだから。
だいたい、クロエがその場で犯人当てをしなければならないのも、クロエがターゲットになったのも、ルーカスが一部原因なんだけど。
それについて文句を言ったら、ルーカスは我に返って、婚約を過ちだと認めるのかしら?
国に帰ってから、あのウェントワース侯爵邸の庭園で、切り出してみよう。国に帰るまでは、さすがにこちらから婚約解消とはいかない。侯爵に、ひいては国に迷惑がかかってしまうから。




