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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case04.舞踏会へ行く探偵と気を引きたい助手
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4-3.突然の出題

「仮じゃないよ。ちゃんとした婚約者だ。お互いの両親も賛成したじゃないか」

「だけど。私とあなたは友人で、これはあくまで私がプラントハンターを体験できる、貴重な機会をいただいてるだけよ。あまり義務を感じ過ぎないように、気を付けてちょうだい。あなたに負担を強いるつもりはないわ」

「クロエ、負担だなんてとんでもないよ! 僕はとても嬉しいんだ。こうして、君と一緒に旅行ができるなんて」


ニコニコと嬉しそうに微笑むルーカスは、久しぶりなのによく知っていて、なんだかとても不思議だった。ここ近年のルーカスは、普段、ほとんど笑わなかった。なのに婚約してからずっと、ルーカスの頬は緩みっぱなしだ。


どうしちゃったんだ、この人は。


「緊張感のない人ね。だって、あなた、何て言われているかご存知? ”かわいそうに、とうとう悪役令嬢に捕まった、いったいどんな弱みを握られたんだ”って。私も思うわ。探偵になんてこだわるから、いいと思うお相手を間違えてしまうのよ」


クロエが憮然として言うと、ルーカスは一瞬、ぽかんとした。


「……間違えてなんてないよ。僕はクロエがいいんだ」


そして、ルーカスはため息をついた。


「今ここで」

「はい?」

「君が僕を亡き者にしたいと思ったら、どうやってする?」

「はぁ?」


突然どうしたの? クロエは驚いた。イライラしたのをわかってるのだろうか。でも殺したいと思うほどじゃないけど?


「どうする? 剣で刺す? 銃で撃つ?」


クロエは慌てて頭を絞った。


「どちらも持ってないわ」

「持ってないふりをして、持ち込んだっていいだろう?」

「えぇと……でも、今それをしてしまったら、死体と二人きりでいる羽目になるし、出たら捕まってしまうわ」

「でも君はどうしても僕を消したい。そうしたら?」


私はしばらく考えを逡巡させて、意見をまとめた。


「毒……かしら」

「どうやって? 銃や剣はドレスに仕込むことが可能だけど、毒は液体だからなかなか難しいよね」

「うーん……ペンダントか……指輪に仕込むのを聞いたことがあるわ」

「指輪?」

「ええ、液体や粉末を入れておくことのできる指輪があるのよ。かつては持病の薬を入れたりしていたみたい。その後、何かあった時の自害用にも使われたそうだけど。今でも作られているって聞いてるわ」


先日、マリアンヌと話していた時に、誰かに嫌がらせをされたら、何を疑ったらいいのかという話題の中で、登場したのだ。


天使のようなマリアンヌと悪役令嬢のクロエは、嫉妬や濡れ衣の対象として、よく窮地に陥るので、対策を練らねばならず、よく相談している。指輪に関しては、マリアンヌもクロエも知らなかったが、ウェントワース夫人が話してくれた。


「なるほど。見たことはある?」

「えぇ、一度、ウェントワース夫人に見せていただいたけど……それが何か?」

「え、母上?」

「ええ」


一瞬絶句した後、ルーカスは空咳をして座り直した。その時、クロエが毒草から薬草について語り尽くしたのは内緒だ。一通りの知識を蓄えたのに、プラントハンターになれなくて残念。


「うん。それじゃ……なるほど、……その指輪があることは、女性なら知っているということだね」

「どうかしら。指輪やなんかに興味があれば、知っているでしょうね。でも、どのくらい毒の量が必要かは、よく知らないと思うわ。あなたのお母様だって、持っているだけで、使ったことはないっておっしゃってたし」


クロエが言うと、ルーカスは目を蕩かせて微笑んだ。


「……母のことを、君に『あなたのお母様』と言ってもらえるのはいいね。どうせなら『お義母様』って呼んでいいのに」

「いくら何でも早いでしょ。別にただの婚約なんだし、いつだって破棄してくださって構わないわよ」


呆れたクロエはおざなりに言ったが、ルーカスは少し笑っただけだった。


「困るのはクロエでしょ。植物を見られなくなる」

「それはそうだけど……」


クロエは多少ムッとしながら応えた。脅しのように使わなくたっていいじゃない。ここで捨てられたのなら、家族に迷惑はかかるけど、親族だって頼めば迎えに来てくれるだろうし、困らない。とにかく、国の外に出られたのが一歩なのだ。


待てよ。


「ここから帰れなくなるのは困るけど……でも、調査のためにここに住んでもいいんだし、そうなったら帰るお金は自分で稼ぐし、もともと、してみたかったことだもの。貴族令嬢だから諦めていたけど、こうしてきっかけをもらえたのなら……何とか自力でできるわ。植物の輸出入業者で働けるかしら? うん、いいプランだわ。立派に成功して、それで帰るから、心配しなくてもだいじょ」

「わかった。よくわかった。うん、婚約破棄なんてしないよ、クロエ。だから一緒に帰ろう?」

「……あなたが良ければ」


そもそも、面倒臭がりのルーカスが、自分から面倒ごとを起こすとも思えない。ちょっと想像したら楽しくなってしまっただけ。


何で青くなってるんだろう、とクロエは首を傾げ、先ほどのルーカスとの会話に気持ちを戻した。


「そういえば、ルーカス。さっきの……指輪なんだけど」

「うん?」

「その指輪を使いたい時は、きっと誰かに相談すると思うの。その時に、間違った話をされたら、正しく使うことはできないでしょうね」

「というと?」

「例えば、気付け薬入れにしていたように、必ずしも致死量は必要ないわよね。それで、誰かに、『相手を眠らせるだけだよ』とかなんとか聞いて、何かあって逃げるために使おうとしたら、それが毒だったとか……あり得ると思うわ」


ルーカスは腕を組んで唸った。


「うーん。使い方か……」



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