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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case04.舞踏会へ行く探偵と気を引きたい助手
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4-2.美味しい話には罠がある……とは思いたくない

 この友好国の視察は、ルーカスの父親であるウェントワース侯爵の仕事の一つだった。


だが、忙しい侯爵は手をかけてこなすことができず、いつも突貫で行われてきた。ずっと時間が懸案だった公務だったので、今回は、ゆっくりと回ることができると誰もが大歓迎だ。


ルーカスは跡取りとして、手始めにこなすべき仕事に、ようやく手をつけた。そのおかげで、侯爵夫妻から、クロエは泣くほど感謝されている。


いちいち大げさだわ。別にクロエがいなければ視察に行かないと、ルーカスが駄々をこねたわけでもあるまいし。


とはいえ、クロエは、ルーカスが、能力はあるのに面倒くさがりで怠け者である、と重々承知していた。だから、一人で公務は請け負えないと交渉したのは想像がつく。クロエがそのお相手になるはずではなかっただろうが、誰でもよかったに違いない。クロエとしては、お世話になっている多忙な侯爵が身体を壊す前に、ルーカスが公務を手伝えて本当に良かったと安堵している。


国を出るまでは不安だった。


誰かが、お似合いのマリアンヌのため、クロエを潰しに来るかもしれない。似合う似合わない以前に、その高い可能性に、ルーカスのプロポーズを嫌がったのも事実だ。だが、こうして国外に出てしまうなら、危険は少ないことに気づいた。


それと、なぜかマリアンヌが大喜びだったのも危険が減った理由だろう。どちらにしろ、男性たちにとっては、あのマリアンヌを手に入れられるかもしれないのだ。そちらの勝算の方にかけたくもなる。そうなれば、クロエに嫌がらせなどしたら意味もない。したがって、兄弟のいる令嬢もまた、なりを潜めたのだった。


クロエは改めてされたプロポーズのことを思い出していた。植物の誘いがなくたって、うっかり承諾してしまいそうに、ルーカスは素敵だった。完全にこちらの気持ちが読まれている。


「あなた、最初から仕組んでいたんでしょう? 目的を達成するために」

「何って?」


ルーカスがギクリとした顔をした。ほらね。


「いい加減、探偵は諦めてください」


クロエが言うと、ルーカスはぐっと黙り、呆れたように言った。


「僕がそのためだけに婚約したと思ってるの?」

「いいえ。……それだけじゃありませんわね。私が外国の植物を自分の目で見たいと言ったからです」


何て親切なんだろう。それだけだったら、感謝しかない。だが、どうも、ルーカスの探偵熱に引きずられただけなような気がして、クロエは後悔し始めていた。


美味しい話には罠がある……とは思いたくないけど。


「そうだ。君のためさ。僕の仕事に、婚約者としてならついてこられるんだから。前に、父上にそう言われてね……こないだ、ベンジーが帰ってきた時、思い出したんだ」

「あぁ、そうでしたわね。ベンが留学のお土産に外国の植物をたくさん手に入れてくださったんだったわ。ベンは忘れないでいてくれて、嬉しかったです」

「僕だって、忘れてなんかいないよ」

「いいえ、誤魔化さなくてよろしいですわ。私たち、それほど交流はありませんでしたし」


すると、ルーカスはクロエをじっと見た。


「なんです?」

「いや……ベンジーとそんなに親しかったっけ?」

「あちらの植生に興味があったので、何度か手紙をやりとりいたしましたわ」

「フゥン……僕とはやりとりしてくれないのに……」


何? ベンジャミンの一番の親友は自分だとそんなに主張したいの? ベンジャミンだって手紙を出せば返事はくれると思うわ。


「あなたの方がベンと親しいのは知ってるわ」


クロエが言うと、ルーカスは不服そうな顔で身を乗り出し、クロエの頬に軽くキスをした。


「な?」


なぜこのタイミングで? 驚いている間に、ルーカスは額にもキスをした。


だからなぜ?


「この先、キスをしていいのは僕だけだよ」


目を白黒させているクロエに、ルーカスは最大限にその魅力を引き出す笑顔を見せた。


「クロエがキスをするのも僕だけ。どんなに嬉しいプレゼントをもらっても、キスはしちゃダメ」

「なんの話……」


言いかけて、クロエは心当たりに気付いた。


ベンがガラスドームをくれた時、確かにクロエはベンジャミンの頬にキスをした。だが、それなりの友人なら、頬にお礼のキスをしたところで、なんの問題もない。ルーカスだって。


なのに。


ルーカスにキスをされるとものすごく緊張してしまうのは何故なのかしら。


クロエはそれを悟られないように、ツンとそっぽを向いた。


「ベンは兄みたいなものよ。幼馴染なんだもの」


実際のところ、年齢を考慮しなければ父親みたいだと思ってはいたが、それはさすがに悪いから言うことはできなかった。


「幼馴染……あの、僕は幼馴染だけど、婚約したよね?」

「? そうよ?」

「婚約者って、兄代わりじゃないよ?」


意味がわからない。クロエが婚約の意味をわかってないとでも思ってる?


「そんなことわかっておりますわ」

「じゃ、僕のことを普段からルーって呼んでくれと言っても、構わないよね? あと、いい加減、他人行儀な口調はやめてほしい。婚約者なんだから」


正しい、ような気がするが、だからといって、はいそうですかと従えるものでもない。少しくらいは不本意な気持ちに素直になっておきたい。


「えぇ? えー……」

「頼むよ」

「わかったわ。できるだけ、そうします。仮にでも婚約者なんですものね」


”頼む”って。


ルーカスがそんなことを気にするなんて、ますますわからない。



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