表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case03.帰ってきた幼馴染と面倒な求婚者
29/157

side story03 彼は幼馴染であって恋敵ではない ーベンジャミンの憂うつー 前

ベンジャミン視点です。

クロエがガラスケースの植物を見ている時の、ルーカスとの会話。


長くなったので、二つに分けました。

同時更新です。


ベンジャミンの幼馴染は、どうやら喧嘩をしたらしい。


留学先から久しぶりに帰ってきてみれば、ベンジャミンの二人の幼馴染のうち、片方、クロエ・ソーンダイク伯爵令嬢は不機嫌だった。


ベンジャミンは首を傾げた。


クロエのマリッジブルーならぬエンゲージブルーかと思いきや、そうではなかった。


もう一人の幼馴染であり、侯爵家の長男で、ベンジャミンの親友……いや、悪友でもあるルーカス・モファットも機嫌が悪かったのだ。


当然、二人から『婚約しました!』と幸せ報告をもらえると思っていたのに。


ルーカスは家におらず、クロエはルーカスの態度が気に入らないようで、終始不機嫌だ。


こじらせるにもほどがある。とにかく、二人のわだかまりをなくさないと。


だから、今、クロエにいいお土産を渡せて心から良かったと思う。


もし、二人がギクシャクしているのなら、クロエへのお土産として手に入れた植物たちは、ふたりが笑顔になるいいきっかけになる。


現に、クロエは先ほどまでの憂い顔が嘘のように、嬉しそうにガラスケースを見ている。いらないから全部持って行けと言われて、面倒だと思いながらも全部持ってきてよかった。


「いやー、喜んでもらえてよかった。元気そうで何より、だっ……」


椅子に座りながら顔を上げたベンジャミンは、思わず逃げ出しそうになった。ルーカスがベンジャミンをじっと見ている。いや、睨んでいると言ってもいい。ベンジャミンは何が何だかわからなかった。


クロエが笑顔であれば、ルーカスはいつだって笑顔だったから。


「……何、ルーカス。俺、悪いことしてないよな?」

「邪魔して悪かったな」

「何を?」

「手を握って……何か大事な話があったんじゃないのか」

「いや、別に?」


ベンジャミンは首を傾げた。あれはただ、クロエの愚痴を聞いていただけだ。総合するとつまり、ルーカスの気持ちがわからないという話だったはずだけど……


「ずっと会っていなかったのに、ベンジーは……いつでもそうなんだ。いつだってクロエはベンジーの方が好きなんだ。ベンジーはクロエにプロポーズしないのか? ベンジーが言ったのなら、すぐにでも承諾するだろうな。羨ましいよ」

「まさか」


一体どうしたんだ、ルーカス?


ベンジャミンは驚愕した。


なんて勘違いをしているんだ。あのクロエがルーカスよりベンジャミンがいいだなんて? クロエがそんなはずないだろ?


「ちょっと待て。あれは、クロエの癖が出て、爪が割れそうだったからだよ。覚えてるだろ、ルーカスだって。イライラするとテーブルを爪で叩くんだ」

「本当に? だから爪が痛んでたのか……最近出てなかったのに」

「へぇ? よく知ってるな?」

「見てたから」


照れも怒りもせず、ふてくされたルーカスに、ベンジャミンはため息をついた。


「あのなぁ、ルーカス、俺はクロエに結婚を申し込んだりしない。俺にとってクロエは大事な友人でしかない。だから、留学先で見つけた植物を運んでくるんだよ。それだけだ」


ベンジャミンが言うと、ルーカスは不思議そうな顔をした。


「クロエに魅力がないだと……?」

「どこをどう聞いたらそうなるんだ?」

「だって……」

「今日はそれで、何しに来たんだ? 俺を探しに来たわけじゃないだろ?」

「……クロエに会いに来るだけでは悪いのか?」

「いいや。悪くはないよ。でも今まで疎遠だったのに、なんで急に来たのかな、と思うだろ?」


ベンジャミンの言葉に、ルーカスは不機嫌に黙り込んだ。返事がなく、ベンジャミンは諦めて話を続けた。


「俺だって、結婚したくないはずのお前が、クロエが探偵をするためだけに結婚を申し込む、ってのは、さすがに想像つかないよ」

「誰から聞いた」

「いろいろと」


ベンジャミンは微笑んだ。


よかった、バレてない。


自分が常に報告をもらっているなどとわかったら、二人とも怒り出すだろう。全く別の切り口で。


ベンジャミンは二人の友人、マリアンヌ・クラーネ男爵令嬢から手紙で定期的に連絡をもらっている。


なので、クロエから聞いた時は知らないふりをしたが、実際のところ、プロポーズについては、マリアンヌから教えてもらった。


二人にマリアンヌと知り合いであることを隠しているのは、最終的にマリアンヌから持ちかけられた話だ。彼女にとって、自分は二人をつなぐ良心らしい。確かにベンジャミンは、二人のためなら自分の利益にならないことでもできるが、二人はそんなことは知らない。正直、隠す意味などないのだが。


たいていの報告は他愛無く微笑ましいもので、ベンジャミンはいつも楽しみにしていた。だが、今回はさすがに驚いた。独身主義だと言っていたルーカスが、急に結婚しようと思うなんて晴天の霹靂だ。


しかし、なんて理由だ。探偵だなんて。


「クロエが探偵になりたいなんて、どうして思った?」


さっきクロエから聞いた時は、衝撃で転びそうになった。


クロエには適当にフォローを入れたが、今、考えてもよくわからない。マリアンヌから届いた手紙にはなかったが、彼女も知らなかった事があったとは。


「似合うから」


ルーカスはベンジャミンが知っていることに疑問も持たず、素直に答えた。


「でも今まで聞いたことがない。彼女がなりたいのは、プラントハンターだったと、お前も言ってただろ」

「諦めて、普通の令嬢みたいに、結婚するつもりなんだと思ってた」

「探偵になって?」


ルーカスは首を振った。


「いや。プラントハンターを”諦めて、普通の令嬢みたいに、結婚するつもりなんだと思ってた”けど、本当は、やっぱり結婚願望なんてなくて、探偵になりたいんだろうって思ったんだ。あの時はいいひらめきだったんだよ」

「プロポーズも?」

「誰とも結婚するつもりがないんなら、僕でもいいじゃないか。僕なら、クロエが探偵でもプラントハンターでも、気にしない。僕のことが嫌いでもメリットはたくさんある。僕以外の人に嫁いだら、公務ばかりで自分のしたいことができないかもしれないからね」


淡々と、ルーカスは意見を述べた。横顔は冷静で、声も落ち着いていて、まるでビジネス取引のように思える言い草だ。


そういうとこだぞ。そういうとこが、誤解されるんだ。せめてそこに加えるべき言葉がある。クロエを好きだから、振られてもいいから最後の望みをかけたんだと、素直に言えばいいのに。かっこつけてばかりいるから。


だが、指摘すると怒られそうなので言わずにいた。


ルーカスは今まで一度だってうまくいかないことはなかった。だが、クロエだけが予想の範囲外に行く。クロエは結婚願望がなく、手に職をつけたくて、ルーカスに引け目を感じて距離をとる。そして、彼女だけが、ルーカスを動かせるのだ。


沈黙の後、ルーカスは少し微笑んだ。


「……でも、僕を前みたいに、”ルー”って呼んでくれたんだ。『探偵? ルー、あなた、探偵になりたいの?』ってさ」

「嬉しそうだな」

「そりゃ、嬉しいさ。それに、昨日は怒ってないって言ってくれた。まぁ、また喧嘩してしまったけど……でも、もうそんな風に呼んでくれないと思ってた。手紙を出しても返事がないし、あ、それは誤解だったってわかったんだっけ……とにかく、話したりなんか、してくれないと」


そうだろうか。


女性の『”好き”の”種類”だって、”範囲”だって違う』としても。”好き”と言わないから”好きではない”わけではないだろう。現に、クロエは嫌だとは言ったけど、断るつもりだとは言ってない。


「だいたい、申し込むのが遅いんだよ。小さい頃に予約しちゃえばよかったんだ」

「そんなこと言ったって、うちは幼い頃から相手を決めるのは禁止だし、クロエだって……好きなことのためなら、ちょっとぐらい僕の相手をしてくれてもいいだろ」


本当に、ルーカスは自分がどういう立場かよくわかってない。人の噂や名声に敏感なベンジャミンには考えられないが、ルーカスは自分の地位に無頓着だ。クロエが自分に引け目を感じているなど、微塵もわかっていないのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ