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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case03.帰ってきた幼馴染と面倒な求婚者
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3-8.待ってて

クロエは否定したい気持ちをぐっと堪えて、ニーナががっかりしそうな方向へ話をそらした。


「……ルーカスとは、長いこと疎遠だったのよ。だから」

「大丈夫です! それでも、昔からルーカス様はお嬢様と親しくなさっておりましたもの、五年なんて時間はすぐに飛び越えられますわ。きっと、侯爵夫人は、あの髪留めがお二人を結びつける役割に考えておられたのだと思いますの。でもその前にルーカス様がご自身の気持ちに気づいたのですわ! あぁ、とっても素敵です!」


こっちの方面にそらすのは難しかった。諦めよう。


クロエはため息をついた。


「ニーナ……期待しちゃダメよ。すぐに撤回されるんだから」

「まぁ、そのようなことをおっしゃらないでくださいませ。期待ではありません、確信です! お嬢様ならプロポーズされて当然ですもの。旦那様が選り好みなさるから、縁談も少ないんです」

「買いかぶりすぎよ。もともと縁談なんてないの、きっと。私も興味はないし……」


クロエのつぶやきに、ニーナは鋭く言った。


「まだプラントハンターになるおつもりですか」

「もう諦めたわよ」

「それなら、もっと着飾ってくださいませ。そうしたらすぐに求婚者が列をなしますわ」

「ニーナったら……わかってないのね。あなたにとって私は特別かもしれないけれど、私以上に素敵な令嬢なんて、そっちの方が多いくらいにたくさんいるんですからね。マリアンヌ様なんて特に素敵で……ルーカスにお似合いだと思ってるのに」


ニーナの顔が寂しそうに歪んだ。


「お嬢様! 大丈夫です、自信を持ってください」

「そうじゃないったら」


どうしよう。ニーナの寂しそうな顔は見たくない。このまま流されるように結婚なんてことになったら……


自分に侯爵夫人なんて務まるのかしら? 


五年も話していないのに、今更、ルーカスと何を話したらいいのかしら?


……違う! そうじゃない。


クロエはハッと流されそうになった自分にストップをかけた。


ルーカスの相手はクロエじゃない。そのはずだ。ベンジャミンと話している間に、気づくといいのだけど。むしろ、クロエにプロポーズしたことなど、忘れてほしい。


今日来たのは撤回するためなんでしょう? どうしてすぐにしなかったの? ベンジャミンという証人がいるなんて、もってこいじゃない。


クロエが恐る恐る振り向くと、二人は向かい合って話していた。間抜けな顔のルーカスに、ベンジャミンが何かを語りかけている。


何を話しているのかしら? 


思わず見ていると、ぽかんとしていたルーカスの顔が、ベンジャミンが話し終わる頃には、随分と晴れ晴れとして見えた。


クロエはホッとした。


さすがベンジャミン、ルーカスの機嫌を良くできるなんて。このまま、ルーカスの相手を引き受けてくれるといいんだけどな。


クロエが思いながら立ち上がると、ルーカスがクロエに視線をすっと投げてきた。


「わっ」


驚いて足がもつれた。慌ててニーナの腕につかまろうと自分の腕を伸ばしたら、それはくうをかすめ、クロエの体はふわりと宙に浮いた。


「……危ないよ」


ルーカスの声がクロエの耳元で低く響いた。顔を上げたクロエは息が止まった。ルーカスの顔が目の前にあり、クロエはルーカスに膝から抱きあげられていたのだ。


「まぁ、ルーカス! あ……あなたの方が危ないわ。急いで転んだりしたら」

「そんなヘマはしない。クロエが怪我したら困るから。僕の大事な人だもの」


そして、ルーカスはキラキラの笑顔でクロエに囁いた。


「待ってて。すぐに家から正式な婚約の申し込みをするからね」


こんな至近距離で、ずるいわ。何も言えないじゃない。


クロエは思わず目をそらした。耳まで熱い。これは息を止めていたからよ。決してときめいたわけじゃない。


ルーカスは見ているだけでいいのよ、観賞用の花と同じようなものなんだから。クロエはルーカスに見合うような、同じ花瓶に活けられるような花にはなれないもの。


そうでしょう?



case03 END

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