3-6.二人の距離
多分、その間は別の友人がいたのだろうと……それがマリアンヌだったはずなのに、何か違うの? 今、また幼馴染だったことを思い出しただけ?
クロエが首をひねっている間に、ベンジャミンがルーカスを鼻で笑った。
「クロエがいたって、そんなに仲良くなかっただろ。もう長いこと疎遠だったくせに」
「喋れなくたっていいんだ」
穏やかに言うルーカスの横顔に、クロエはピンときた。
なるほど……それは私が探偵をするのを観察していたいからね?
まさか五年、ずっと助手を狙ってたというの?
クロエは真面目に考え始めたが、どうにも納得いかなかった。
でも変だ。冤罪をかけられ始めたのはここ数年で、五年前は特に何もなかった。探偵に見えるようなことだって、何もしていない。
ただ、あの時は、年頃になって、ルーカスだけが近しいのはおかしいことだと気がついて、距離を取り始めた頃だ。もともと人見知りで、顔の怖いクロエは、人との距離があったから、なおさらだ。
ルーカスだって興味はなかったはずなのに、もともと知っていたクロエの性格を見抜き、その頃から準備をしていたということだろうか……
いやいや。探偵って。
そのために結婚って。順番がおかしい。と言うか結びつけるのもおかしい。ルーカスはどんな令嬢とでも結婚できるのだから、ちゃんと選んでほしいし、結婚しようが独身でいようが、探偵にはならない。
そうよ、だいたい、ルーカスは独身主義じゃない。あぁ、この堂々巡りをやめたい。
楽しそうにベンジャミンと話すルーカスを、クロエは軽く睨んだ。
距離を取っても取らなくても、クロエはルーカスに振り回されてしまう運命なのだろうか。これはルーカスと幼馴染であるが故の、必然なのだろうか。だからクロエはイライラして、爪を割りそうになってしまうのだろうか。
非常に困ることは、それでもルーカスを嫌いになれないことだ。
こんなにも面倒で関わりたくないと思ってるのに、それでもルーカスには笑顔を絶やさず、しあわせになってほしいと願ってしまう。
クロエは自分の手元を見つめた。ベンジャミンと話して、まるでクロエを気にしてないように見えるルーカスが、いたわるようにクロエの手をゆっくりと撫でている。昔と変わらぬ優しさが、五年もあった距離を、すぐに縮めてしまう。
憎らしい。
そこへ、執事が姿を見せ、ベンジャミンに声をかけた。
「ベンジャミン様、お伝えいただいていた荷物が到着いたしました。どういたしますか」
「あ! もう届いたの? それじゃ、ここに持ってきて」
「かしこまりました」
執事が戻っていく。
「荷物?」
「うん。クロエにね」
「私?」
執事が先導し、使用人達が持ってきたのは、ガラスケースに包まれた、異国の花々だった。
「わぁ!」
クロエは思わず、ルーカスの手を振り払い、手を胸の前で祈るように掲げ、立ち上がった。ベンジャミンは席を立つと、ガラスケースに近づいて、手をかけた。
「どう? クロエが好きだったと思って、もらってきたんだ。どれも、この国にはない品種だよ。隔離して育てるようにって言われた。栽培方法も、教えてもらったから後で書類を渡すよ」
「近くで見てもいい……?」
「ああ、もちろんだよ」
クロエはガラスケースに突進していった。
「……ガラスケースに触ってもいい?」
「いいよ。だってそれはもう、クロエのものだからね」
「ベン……! あなたって本当にいい人ね!」
クロエはベンジャミンに抱きつき、頬にキスをすると、いそいそとガラスケースに駆け寄った。慎重にガラスケースを触り、外から植物達を楽しむ。
「ありがとう、ベン!」
「いやー、喜んでもらえてよかった。元気そうで何よりだ」
ベンジャミンは椅子に座りながら、ルーカスに話しかけている。
ルーカスは不機嫌なままだ。
クロエが植物に集中し始めると、二人の会話はすぐに聞こえなくなった。




