表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case03.帰ってきた幼馴染と面倒な求婚者
24/157

3-4.爪の音

その声の低さに、クロエ本人も驚いたし、ベンジャミンは笑顔が固まっていた。そう、クロエが本気で怒るのは珍しい。心配そうに、ベンジャミンが話を引き取った。


「で……でも、クロエはルーカスを嫌いじゃないだろう? そうしたら、結婚でもなんでもすればいい。ルーカスはいいやつだし、それは俺も保証するよ」

「ルーカスはいい人よ、でもダメよ」

「どうして?」


クロエは、それには答えず、テーブルをコツコツと指で叩いた。


なんと言ったらいいのだろう? 


見目も肩書きも何もかも、クロエが劣ってみっともないから? 


悪役令嬢と結婚なんて、ルーカスの評判を落としたくないから? 


クロエはプラントハンターの仲介者として、一人で生きていきたいから?


ルーカスが言う探偵になりたくないから?


「……もっとお似合いの人がいるから」

「そうかい?」

「ルーカスは……なんでもできて、誰にでも好かれる人だもの。実際は人嫌いで怠け者で面倒くさがりだけど、そんなの、誰にもわからないでしょうし、ルーカスだって隠して生きていけるでしょう」


クロエの爪の音がコツコツと響いた。


「あぁ、……そうだね」

「あなたはいいわ、同性だもの。でも私は違うの。だから距離を置いていたのに。ルーカスったら、人前で私にプロポーズなんてするのよ? 引き返せないじゃない。そりゃ、あの時は犯人が諭されたところだったし、好意的に受け止めてくれた人も多かったけど、全体で言えば一握りよ、そんなの。こないだの舞踏会では針の筵だったわ。ルーカスなんていなくって、弟と一緒に行っただけなのに」


クロエはため息をついた。ベンジャミンは軽く笑った。


「つまり、ルーカスの評判が落ちるのが許せないと」

「そんなんじゃ……」

「じゃ、いいじゃないか。それくらいで落ちるような評判なら、ルーカスだってそれだけの男だってことだろう?」

「違うってば。私よりふさわしい人がいるって、みんな思ってるはずだもの!」

「婚約してしまえば、諦めるんじゃない?」

「そういう問題ではないの。私はマリアンヌ様とルーカス、二人がお似合いだと思ってるし……大半がそう思ってるわ。でも当のマリアンヌ様は、なにも言わないのよ。それどころか、婚約式はいつにするのかって聞いてくるのよ? おかしいでしょ?」

「別におかしくないよ」

「おかしいわよ。だいたいね、私の評判なんて全然良くないのに……私が悪役令嬢として嫌われていて、マリアンヌ様は憧れの令嬢として嫉妬されていて、それで私たちは冤罪をつけられそうになって、すごく困ってるっていうのに」


急にベンジャミンが顔を上げ、クロエを見た。クロエの爪の音が強くなったり弱くなったりしていた。


「君とマリアンヌ嬢が? 二人とも? さっきはそんなこと言ってなかったろ?」

「そうだった? 私に悪意があってマリアンヌ様を脅して罪を犯させたとか、無邪気なマリアンヌ様に私が罪を押し付けようとしたとか、いろいろよ。なぜかマリアンヌ様が矛先に上がって……でも全く関係ない人が犯人なの。私とマリアンヌ様、そして別の方を陥れようとして、あれこれと手を考えるみたいで。私が解決することで、みんな助かってるけど……」 


そこでクロエは思い出した。


「そうなのよ。助けた令嬢方は、ありがたいことに私を信じてくれるようになったわ。でも、彼女たちは逆にマリアンヌ様を信じていなくて……今、マリアンヌ派とクロエ派で分かれてしまっているみたいなの。なんでか全然わからない。それも問題でしょ。だって、私と比べ物にならないくらい、マリアンヌ様は本当に素敵な子なのよ。マリアンヌ様を好きな方からすれば、私は邪魔者よ。それに悪役令嬢だし、世に必要ないとまで思っているかも。そうしたら、彼女のために、私をどうにかするなんてこと、なくはないでしょ。それも嫌なのよ。マリアンヌ様のせいみたいになっちゃう」

「そんなこと……」


ベンジャミンは言いかけたが、途中で唸ってやめてしまった。テーブルを叩く音がまだコツコツと響く。


そう、ないとは言い切れないから。彼女が最高だという評判を守るために、誰かがその障害物を排除しようとしても、不思議はない。


クロエはしょんぼりとして、独り言のように続けた。


「私は女性だから庶民になったとしても、庭師になるにはハードルが高いわ……でも、令嬢のままなら、庭いじりはできる。うちの庭なら、ある程度私は自由にできるし……そもそも、結婚なんてしたくない」

「あぁ、そうだったな……プラントハンターになりたいって言ってたもんな」


クロエは顔を上げた。


「覚えてたのね」


ルーカスは覚えてなかったみたいだけど。


「俺が留学する時に泣きながら言われたからね、そりゃ覚えてるよ」

「あら。そうだった?」


言いながら、クロエは爪でずっとテーブルを叩いていた。カツカツとかなり強い音がし始めたが、無意識なので気づかなかった。ベンジャミンは一瞥しだたけで、止めるのをひとまず諦めた。


「侯爵夫人だって、マリアンヌ様が大好きなのよ。彼女とルーカスが結婚したら、いい家庭が築けるのはわかってるじゃない。なのに、探偵になる私を支援するために、結婚したいと言い出したのよ? 探偵の助手になりたいとか言って。幼馴染だから楽だとでも思ってるのかしら……!」


カッカッカッカッと爪がテーブルを叩く音が、さらに響く。ベンジャミンが顔をしかめた。


「クロエ、気持ちはわかるけど」


これ以上やったら爪が割れる、と意を決して伸ばされたベンジャミンの手が、クロエの手に重なった。


とその時、その手を暗い影がゆっくりと引き上げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ