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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case03.帰ってきた幼馴染と面倒な求婚者
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3-3.行き場のない苛立ち

クロエの言葉に、ベンジャミンは驚いた顔をした。


「それは……随分だね。君は見た目に威厳があるから……優しい雰囲気のマリアンヌ嬢と一緒にいるところなど、想像がつかないのだろう。俺の知る限り、君はいじめとか一番しなさそうなタイプなんだけどね。そもそも人付き合いにそこまで関心がない」


ベンジャミンは相槌をうちながら、紅茶を飲んだ。クロエはホッとして息をついた。やはり、ベンジャミンには正直に話してよかった。


「でも、ま、元気そうで安心した。クロエに元気がないと、ルーカスも元気ないからな」

「まさか。もう何年も話していないのよ?」

「でも、舞踏会でもお茶会でも、見かけはするだろう? 笑顔でいるかどうか……まぁ、安否確認くらいはしてる、よね? クロエも」

「そうね……」


確かに、ルーカスがくるはずのパーティーでは、チェックしてはいる。いたら、ちゃんと楽しそうにしているかも確認しているし、体調が悪くなさそうかどうかだって気にしてる。


何しろ、病気だったら、クロエはウェントワース夫人のお茶会に行く時にはお見舞いを持って行かねばならないし、その時に、ルーカスは別としても、レオナが喜ぶような、素敵な花も添えなければならないからだ。


それだけよ。それだけ。


「でも、よくマリアンヌ様と楽しそうに話しているから……私のことなんて気にしてないはずよ?」

「どうかな? 会話に入ってみたらどう?」

「まぁ、それは無理よ。みんなに恨まれてしまうわ。もちろん、お二人にも」


言いながら、クロエは自分でも少し疑問だった。こないだマリアンヌはルーカスとはただのお友達だと言っていたのだ。だから自分も会話に入っても? ……いや、おかしい。そもそも、自分は友達ではないから同等ではないから。あれ? でもマリアンヌは自分とも友達だと言ってくれた気もする。


「どうして?」

「なんていうか……私とマリアンヌ様がルーカスを巡って仲違いしてると思われてるの。こないだも、ウェントワース夫人が呼んでくださったお茶会で、マリアンヌ様を応援してらっしゃる令嬢に絡まれて、大変だったんだから」

「へぇー……じゃ、その令嬢は、ルーカスに憧れているんだろ?」

「そうよ! よくわかったわね」

「さっきのクロエの話の応用さ。怒りの矛先が、目の前の出来事じゃないってこともある」

「さすが」


クロエが言うと、ベンジャミンは笑った。


「それにね、ルーカスが何を思ってるかなんて、わからないだろう? 女性がミステリアスでならないのなら、男性だって、簡単にわかってたまるかって思ってるよ?」

「見かけ通りではないってこと? それは……だってルーカスは……怠け者だから……見かけ倒しなところがあるけど……でも、マリアンヌ様はとっても素敵な方よ?」

「本当に? マリアンヌ嬢って、本当に、天使みたいな無垢な人? ルーカスのことが好きなの? 俺、知らないんだよ」


ベンジャミンの言葉にクロエは驚いて笑った。


「会ったことないの? ベンらしいわ。……そうね、とても可愛らしい方よ。誰からも好かれていて、……私とは随分違う人」

「クロエだって可愛らしいじゃないか?」

「どこがよ」

「少なくとも、俺とルーカスにとってはかわいい幼馴染だよ」


なるほど。ベンジャミンは外国で女性のほめ方についても学んできたらしい。クロエは思わず笑顔になった。彼がルーカスと一緒にいてくれれば、面倒ごとがなくなりそうな気がする。


「それはありがとう。ルーカスも、あなたが帰ってきたなら、正気に戻るかしら?」

「どうかな? ルーカスは正気なんだと思うけど」


なにそれ。そんなの、聞いたことがないわ。


「だって探偵よ? 五年も話してないのに、いきなり探偵って?」

「いや、それだけ見てたってことだよ。クロエの観察はルーカスの趣味みたいなもんだし」

「冗談でしょ? ……マリアンヌ様とルーカスが婚約したら、その奇怪な趣味はやめてもらえるのかしら?」

「え、いつ? なんで? 手紙にはそんなこと」


ベンジャミンが言いかけたが、口を閉ざした。


「なに?」

「いや……その二人が婚約するって? 聞いてないよ」

「まだよ。早くすればいいと思わない? お似合いでしょ、ルーカスとマリアンヌ様」


クロエは不満を込めて言ったが、ベンジャミンは困った顔をした。


「二人がお似合いなのはわかるよ。でも、気持ちはわからないだろう?」

「二人は仲がいいもの。今はまだ友達でも、きっと……大丈夫だと思うけど」

「うーん、まぁ……でも、クロエは? ルーカスとクロエの話してなかったっけ、今は。クロエはどうするんだよ」

「え?」


クロエはゾッとした。


まさか、ルーカスのあの許しがたい言動を知ってるわけじゃないでしょうね? 留学から帰ってきたばかりなのに。


「知ってるの?」

「探偵の話だろう? なるの?」

「ならないわ」

「決まっているならいいじゃないか? ……なんで怒ってるんだ?」


顔に出ていたらしい。だが、ベンジャミンは本当に知らないのだろうか? ルーカスから聞いていないのだろうか? マリアンヌにいうはずの言葉を間違えてしまったとか、そんな風に?


「だって怒るのは当たり前よ」

「そんなに探偵は嫌?」

「探偵だけじゃないのよ、ルーカスが言ってきたことは」

「何? 助手にしろとか? ルーカスは頼みそうだもんなぁ……」

「それだけじゃないわ……」


クロエはため息をついた。


ベンジャミンが知っているかどうかは、この際問題じゃない。クロエはベンジャミン以外にこの怒りをぶつけることができないのが問題だった。ルーカス本人にはもうぶつけてしまって、ルーカスをこれ以上逆撫でしたくない。さすがに本人が間違いを認めるまでは、クロエが怒っても向こうも意固地になるだけだ。


クロエは苛立ちを止められず、拳を机に叩きつけた。


「プロポーズよ」

「クロエが? ルーカスが? マリアンヌ嬢が?」

「ルーカスよ! マリアンヌ様を差し置いて、私にプロポーズなんてしてくるからよ……!」



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