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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case03.帰ってきた幼馴染と面倒な求婚者
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3-1.幼馴染への相談

ウェントワース夫人のお茶会の翌日で、クロエは疲れていた。


留学先から久しぶりに帰ってきた幼馴染、ベンジャミンを前にしても、会話にあまり気が乗らなかった。


「お土産買ってきたんだけど?」


ベンジャミンが自身の眼鏡を押し上げながら、テーブルの上の、小さな鉢植えを指差す。クロエが欲しがっていた観葉植物で、まだクロエの国では手に入れるのが難しい、外国産の植物だ。ベンジャミンの留学先がちょうど原産国だったので、お願いしたのだった。


「……ありがとうって言ったじゃないの」

「なんだか知らないけど、俺に当たる?」

「当たってない」

「いやいやいや。ルーカスがどうしたっていうんだよ」


言われて、クロエは思わず飛び跳ねるように身を起こした。


「ルーカスは関係ない!」


言ったものの、ベンジャミンの顔が呆れたようにクロエを見た。いやいや。ありだろ。それ絶対。そう言われているようだ。


ベンジャミンは名門伯爵家、クール家の長男だ。切れ長の瞳に賢そうな眼鏡をかけ、さらりと長い髪を後ろに束ねている。優しげな笑顔が特徴だが、出世したがりの計算高いクロエの幼馴染。


彼は、いかにも彼らしく、国政に携わる仕事をするため、外国留学をしていた。今回、久しぶりに帰ってきて、友人や親類やお世話になった方々の家を訪問している最中だ。留学中に伝手もできたようで、今日の訪問も急だったが、クロエも忙しいわけではないので、歓迎していた。


それでこの話。だが、ベンジャミン以外に、クロエが素直に相談できる人もいない。特にルーカスの話では。


ルーカスは、ベンジャミンと同じくクロエの幼馴染で、国でも有数の資産家で重鎮の、ウェントワース侯爵家の長男だ。幼い頃は、母親同士が仲良かったため、家族ぐるみで親しくしていた。つい最近まで疎遠だったのだが、先日、侯爵家のお茶会に出てから、ルーカスはある提案をしてきていた。それが憂鬱で仕方がない。


「本当に?」

「ルーカスに会ったの?」

「いいや。ここへ来る前にルーカスを訪問したけど、いなかったから、先へこっちへ来た。問題でも?」

「ないわ」


会話をしながらベンジャミンにじっと見つめられ、観念したようにクロエは話し出した。


「……わかったわよ。驚かないでね。ルーカスね……」


クロエの神妙な言い方に、ベンジャミンが緊張したのがわかった。


なんと言ったらいいのだろう? でもきっと、ベンジャミンなら納得してくれるだろう。


「私に探偵になれっていうの」


ベンジャミンががくりと肘を落とし、椅子から転げ落ちそうになる。


「……探偵?」

「私の周りで……なんていうか、まぁ、事件が起こることがあって、……それを解決していたら、そんなことを言い出して」

「ルーカスは探偵小説好きだからな。でも、実際に、そんなに事件が起こるものなのか?」


ベンジャミンの疑問に、クロエは慌てて否定をした。


「事件って言っても、たいしたことはないのよ? ハンカチが汚れていたり、ブローチが見つからなかったり、切っちゃいけない花が切られていたり……」


ベンジャミンが苦笑した。クロエだって笑い飛ばしたい。しかし、些細なことも大きな事件なのだ。特に冤罪は困る。


「君が犯人を捕まえるの?」

「捕まえるというか……最初に犯人だって疑われるのは私なのよ」

「まさか」

「もちろん、私はやってないわよ。でも、そうなんじゃないかって、いつも思われちゃうのよ。冤罪はごめんだから、毎回、違うって証明しないとならなくて……。そうすると、どうしても、私があれこれ説明しなきゃならなくて。それで、」


ベンジャミンが頷いた。


「ああ、その姿が探偵みたいなんだね」

「どうやらそうみたい。探偵小説って、一度読んだけど、似ても似つかなかったわ。あんなにかっこよく、スマートに謎なんて解けないし……頭良くないし、何も知らないければ気づけないもの」


すると、ベンジャミンは面白がるようにクロエを見た。


「うーん、そうかな? クロエ、結構できると思うけど……」

「まぁ。ベンまでそんなことを?」

「だって、お菓子を食べてしまった犯人を見つけるの、上手だったろ」

「そんなの、他愛ないことじゃない。ルーカスが言ってるのは、もっと責任が重いものよ。例えば……人探しなんてできないでしょ」

「でも、街中までよく一人で行くからなぁ、君は。伝手で探せそうな気がするね」

「本当にもう」


からかうのも大概にして。クロエが息をつくと、ベンジャミンは笑った。


「じゃ、こういう話はどう? ある貴族令息がね、令嬢に手紙を出すんだ。恋い焦がれていますってね。だが、返事はこなかった。ある日舞踏会で再会し、そのことを聞き咎めると、彼女は言うんだ、失礼な方ねって。どうしてそんなことを言ったんだと思う?」


クロエは首をひねった。


「どうしてって……その貴族令息が、本当に失礼な文体で書いてたんでしょう。例えば、愛人にしてあげる、みたいな。でも、お互いにそういう立場ではなかったから、彼女はがっかりして手紙の返事を書かないことにしたんじゃないかしら。よくある話だわ」


クロエは想像しながら話を広げた。


お茶会や舞踏会で貴族たちの噂話を集めていれば、割と出てくる話だ。普通はそんなことはない。誰だって配慮するし、基本的に、自分の立場はわかってる。でもそうでもない人もいるのだ。


「そう思う?」


ベンジャミンが首を傾げた。違うらしい。


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