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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case01.断罪する悪役令嬢と突然の求婚者
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1-2.”侯爵夫人のお気に入り”

マリアンヌがこの状況に気付いたところで、話はすでに既定路線で走っているはずだ。クロエがストップさせない限り、誰もできないだろう。


「だとしても、マリアンヌ様の存在が不愉快なはずです!」

「なぜですか?」

「それは、……ルーカス様とマリアンヌ様が仲がよろしいからですよ。あなたの嫉妬心など、バレバレです」

「え、誰って?」


クロエはその存在を認めたくない名前に眉をひそめた。


ルーカス? って、やっぱりあのルーカス? 


すると、令息は声高に言った。


「もちろん、ウェントワース侯爵の跡取りであられる、テンバリー伯爵ルーカス・モファット殿ですよ!」


クロエは頭痛がしてきて、手を頭にやった。


いい加減関連付けないでほしい。


ルーカス。


クロエの幼馴染で、幼い頃から美少年、今でもそのままに、男女問わず、誰もが憧れる美丈夫。


彼は憧れのルーカスと、憧れのマリアンヌにうまくいってほしいのだろう。奇遇だ。クロエもだ。

ただ、ルーカスにまともな結婚願望がないのはあまり知られていないらしい。


「まぁ。お二人が仲良くしても、私には関係のないことですわ」


本当に。とっとと結婚でもして、幸せになって欲しい。クロエにはクロエの、やりたいことがあるのだ。


「あなたの中ではそうなのでしょう。それは……あなたご自身が当確だと勝手に思っておられるからですよね? ルーカス様は、これまで、これといった恋人らしい令嬢をお作りになりませんでしたから、あなたは勘違いなさっているのです。家の方針に従って、クロエ様と正式なご婚約をなさっていないだけだと。ですが、それはあなたが妨害なさっているのです。ルーカス様は噂されて迷惑だと思いますが?」


令息は涼しい顔でニヤリと笑った。さぞかしショックだろうと思っているのだろう。でも、申し訳ないが、クロエには何の打撃もない。


なぜならクロエは彼の言う”勘違い”を一度だってしたことがないからだ。


確かにルーカスは、”侯爵夫人の一番のお気に入り”と言われているクロエと結婚するのでは、と言われていた。でも、それはただの噂だ。そもそも、幼い頃は仲が良かったが、今はもうだいぶ疎遠になっている。


だいたい、ルーカスといえば、マリアンヌと仲良くなる前から今に至るまでも、令嬢たちに追いかけ回されてきた。クロエはルーカスに同情はしたが、助けたことも、彼女たちを押しのけようとしたこともない。それなのに、その都度、クロエが邪魔していると文句を言われてきたから、すでにルーカスに関わることは避けてきた。


今更なんだけど……だからこそ、なのだろうか。


こんな風に、クロエがマリアンヌを邪魔と思っているのではないか、いじめるのではないか、と言われるようになってしまった。


ありきたりでくだらない噂だからと、無視していたのがまずかったかもしれない。マリアンヌが侯爵夫人と親しくなって、クロエはさぞかし悔しかろうと、人々は憶測をし始めたのだ。


どうして放っておいてくれないのだろうか。


周りが勝手に盛り上がり、マリアンヌに何かあると、いつの間にか、クロエのせいにされるようになった。


なんという憎まれ役、悪役令嬢の誕生である。


「ルーカス様もおっしゃっておりました。あなたはご自身の大切な幼馴染で、その縁を何より大切に思っていると。そう、ただの幼馴染なのですよ?」


ルーカスめ……なんで話題にするかな。恨まれるのはこっちなのだ。


クロエは苛立ちで眉をひそめた。


「ご指摘なさらなくても、承知しておりますわ」


あの男さえ、マリアンヌと婚約してくれていれば、こんなことには……


いいえ。これまであまりに植物に傾向しすぎたのかもしれない。職につくのは諦めねばならなかったし、社交界でやっていくには、人に責任転嫁していてはやってられないのだわ。自分の力で乗り切るのよ、今までのように。


これまで、クロエは令嬢らしくないと避けられてきて、それも今の評価に繋がっている。その中で、唯一相手にしてくれたのがウェントワース夫人だ。感謝しかないし、その関係を切らされたくない。


たかが息子くらいで。


だが、そうもいかないのが、世の常なのだろう。


「ご自分の立場がいつまでも上と思うなんて、聡明なあなたらしくもありません。やはり、愛は人を狂わせるのですね」


令息に言われて、クロエは思わず笑ったが、相手はゾッとした顔をした。


外したわ。


クロエは空咳をして場を取り繕った。


目の端に、状況に気付いて慌ててマリアンヌが間に入ろうとしているのが見えたが、クロエは首を横に振った。入ってくるとややこしくなるのは目に見えてる。マリアンヌが不服そうに諦め、クロエはホッとした。


「上とも下とも思っておりません。そんなことを思う必要はありませんもの」


”だって、ほら、見てくださいな。マリアンヌ様はあんなに素敵なのですよ。私が及ばないほどに、圧倒的に上ではありませんか。生まれながらに人々に愛されるような可愛らしさ、優しさ、人当たりの良さ……私とは大違い。”


クロエがそう続けようと、マリアンヌに微笑んだ、その時。


「クロエ様より人気があるからといって、ふさわしいとは限りません!」


何事?! 


クロエは驚いて声のした方へ振り向いた。





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