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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case02.お呼びでない令嬢と扉を開ける悪役令嬢
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2-10.髪留めの謎、あるいは、宝探し

「まぁ、素敵ですわね。他の男を近寄らせないなんて、早速、熱々のカップルのようですわ!」


マリアンヌの声に、クロエは我に返った。熱々ってなんだ。表現が古くない? だが自分がルーカスを見つめていたことに気づき、それどころではないと、慌てて視線を外した。


「まさか。”熱々のカップル”は、隣同士に座って、手を握ったり見つめあったり、キスをし合うものですわ。私とルーカス様がそんなことをしそうに見えます?」


クロエが努めて呆れたように反論すると、ルーカスはびくりと体を固まらせてクロエを見た。しかし何も言わず、代わりにレオナが優雅に笑った。


「していいのよ、母親の私の前だからって気にしないで。むしろ、してほしいわ。ルーカスったら、誰にも執着しないから、つまらないったらないのよ」

「ルーカス様らしいですわね」

「こんなルーカスを見るのは初めてね。楽しいわ」

「そうですわね。ルーカス様の焦った表情、初めて見ましたわ」


二人がニコニコと話している。


クロエはちらりとルーカスを覗き見た。すると、ルーカスと目が合った。


「その髪留め……」


ルーカスが挨拶なしに言った。珍しい。クロエは首を傾げた。


「これ?」

「どこで……誰に……」

「ウェントワース夫人に頂いたのよ。先日のお茶会で、犯人を捕まえて薔薇の手配をしたから」

「母上に?」


ルーカスはレオナに目を向けた。彼女はうふふと笑っただけだった。


「そうよ、さすがに似合うわね」

「しかしでもこれは」

「もちろん、ルーカス、あなたの机の引き出しに入ってたものよ」


ウェントワース夫人……! こういう人だったよ、この夫人は!


「母上……!」


言うと同時に、ルーカスが拳を握りしめ、テーブルを叩いた。


「この髪留めは、僕が、クロエのために、クロエに似合うと思って、僕が考えてデザインした、特別な髪留めです! なのに、渡した覚えもないのに、クロエがつけていた時の僕の気持ちがわかりますか! 宝石屋に裏切られたのか、他の男が僕のデザインを盗んだのか、クロエが他の男にもらったものを喜んで僕に見せびらかしてるのか、悩んだのに! 宝石商に行って問い詰めてしまいましたよ! 決して裏切ってないと言われて、僕は急いで戻ってきたんです。それが……僕の引き出しに入ってたって? 勝手に何をするんです?!」


珍しく、ものすごい剣幕で怒っている。こんなルーカスを見たのは初めて……いいや、二度目くらい? 三度目? ……意外と見たかもしれない。でも覚えてない。何しろ、五年ぶりなんだから。


剣幕に押されて、クロエはルーカスの話す内容が頭に入ってこなかった。


で、なんと言っていたのかしら?


「ほら、あまり会わなくなってからも毎年買っていたでしょう? そのプレゼントの中から、一つ選んで渡したの。だって勿体なかったんですもの。捨てるくらいなら、本来渡したかった相手に渡しておいたほうがいいでしょう?」

「毎年……?」


な……なんで? クロエが唖然としている中、ルーカスの怒りはとどまるところを知らなかった。


「捨てるわけがないでしょう!」

「そうよね、クロエがつけているのを見て驚いて宝石商まで行ってしまうくらいだもの。手紙ひとつ出せばいいことなのに」


そこでクロエはふと気がついた。


あの時ーークロエがルーカスにお礼を言った時、そしてそのあと、マリアンヌが髪留めに気がついた時も、ルーカスはクロエが不愉快になったわけではなかった。髪留めを目にしたからなのだ。


ホッとした自分に驚きながら、クロエがレオナを見ると、彼女はニコニコと含み笑いをしていた。


彼女はまだ何か隠してる。まさか……


クロエが警戒レベルを上げた時、ルーカスがさらにレオナに言い募った。


「まだあるんですよ、母上。僕は確かにこのところ、引き出しを見ていませんでした。だってクロエに直接会えたから……でもさっき、引き出しを確認したら、何もなかったんです。何もです!」


その言葉を聞いた時、クロエは自分の思いつきにゾッとした。


最近、この家のどこかで何かを見たじゃない。


まさしく今、クロエの頭を悩ませているの、あの、あれ。


あの”妖精の扉”の中に入っていたネックレスは? ジュエリーハウスの箱たちは?


「ルー……もしかして、ネックレスも買ったの?」

「え?」

「……ダイヤモンドとアイスブルーの宝石の、繊細で可愛らしい……」


クロエの言葉に、ルーカスの顔がみるみる赤くなった。逆にクロエは青くなった。あんな豪華なネックレスを? 疎遠な幼馴染の誕生日に? とんでもない値段だわ!


「母上! 『一つ選んだ』って! 他のものは渡してはいないんですよね?」

「それじゃ、見つかっちゃったのね」


やっぱり。では、あれがレオナの隠し事。


レオナの軽い言葉と豪華な宝飾品の落差に、クロエは頭がクラクラした。


「何がですか!」

「あなたの机の引き出しに、いつまでもあっても仕方ないから、宝探しをしてもらおうと思って」

「なんですって? どこに」

「あなたが、引き出しに置いてない、と叫びだしたら、宝の地図を渡そうと思ってたのよ? なのに、プロポーズを保留されただけで、一ヶ月も何もしないで引きこもるなんて」

「いいから! 早く教えてください!」

「実はね、ギャレットに渡してあるの」


ギャレットはルーカスの従者だ。ひどい剣幕でかけていき、ギャレットから”地図”をひったくると、ルーカスはその場を一瞬で駆け去った。


クロエはその後ろ姿を唖然と見ながら、心が軽くなったのを感じた。


それじゃ、誰も盗んでいないのね? 


クロエは疑われないし、誰も断罪されないし、このお茶会は中断されることがない。


つまり、三つ目の、薄黄色のマカロンを食べることができるということだ。……ただ、味わう余裕がないだけで。





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