表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case02.お呼びでない令嬢と扉を開ける悪役令嬢
17/157

2-9.お茶会の始まり

レオナが席に着くと、執事のジェイコブが、待ってましたと言わんばかりに熱々の紅茶を注いだ。三人はそれぞれレオナが選んだ紅茶、そしてモニークはレオナと同じものだ。


クロエはちらりとモニークを見た。


レオナと同じ紅茶だなんて。正直ちょっとモニークが羨ましい。もちろん、選んでいただいたこの紅茶だって最高に美味しいし、不満などないけれど、レオナはどんな紅茶を飲んでいるのかとても気になる。飲んでみたいと言ったら、やっぱりはしたないかしら?


クロエが真剣に考えていると、レオナがクロエに向いた。


「それでクロエ、ルーカスがあなたに興味がないって?」

「え? え、えぇ、はい」


レオナの言葉に頷きながら、クロエは目を瞬かせた。


今度は、同じ紅茶を飲みたいって頼んでみよう。興味がないなんてとんでもない、あるって正直に……あら? 何の興味? 紅茶のことよね? それともマカロンのこと? ……いいえ、違うわね。じゃ、なんだったかしら……そうよ。ルーカスよ。でもルーカスが何に興味があるって?


「でも……そうは思えないわね……だって、今でもあの子は、あなたが来ないかと、よく見てるわよ。あの窓から」


レオナに指差され、クロエは思わず振り返った。お屋敷の二階の窓には、何の人影もない。クロエはホッとして、レオナに抗議した。


「いらっしゃらないじゃないですか」


いたらホラーよ、ホラー。超怖いじゃない。そもそも、今日はさっき会ったのだから、クロエを確認する必要もない。


しかしレオナは不思議そうに首を傾げただけだった。


「変ねぇ……ねぇ、ジェイコブ、ルーカスはどこ? あの窓にいつもいるでしょう?」


レオナが声をかけると、執事であるジェイコブは一礼した後、穏やかに首をかしげる。


「それが奥様、先ほど、お庭から走ってらしたかと思うと、部屋には戻らず、急いで飛び出して行ってしまわれました。宝石商の方へ行くのだとか……」

「宝石商? 何をしに?」

「私にはわかりかねます、奥様。考えられるのは……先日行商が来た時に頼んだ宝飾品が、お気に召さなかったのかもしれません」

「でも、まだ届いてないでしょう?」


二人の会話は続いた。


ルーカスが急いで出て行くなんて、よっぽどの事に思えるけど、きっとクロエを避ける口実だ。でも、宝石商だなんて、あの妖精の扉の宝石たちの事を何か知っているのかしら? 偶然よね?


「……申し訳ありません、クロエ様。私の愚妹が失礼をして」


突然背後から小声で話しかけられ、クロエは心臓が飛び出るかと思った。


「え? あ、えぇ、あの……」


慌てて振り向くと、それはモニークの兄だった。モニークに似た綺麗な顔が間近で申し訳なさそうにしている。なんともったないことか。


「構いませんわ。慣れておりますもの」

「そんなことはございません。我が妹のことながら、情けなく思います。差し出がましいようですが、あのような態度に慣れてはなりません、クロエ様。あなたは素晴らしい方なのですから。私は応援しております、ルーカス様がプロポーズなさったのも当然だと」

「ケネス様、僕の婚約者からお離れくださいね、近すぎませんか」


ちょっと待って、勝手に決めないでくれる? まだ誰とも婚約してませんけど?


クロエが振り仰ぐと、ルーカスがゼイゼイと息を切らして、モニークの兄、ケネスの肩を掴んでいた。ケネスが怯えたように離れ、モニークをせきたてて退席させようとした。


だが、モニークは頑として譲らなかった。そして、彼女はちらりとルーカスを見た。


それだけで、クロエにはよくわかった。


あぁ、そうなの。


モニークはルーカスに会いたかったのだ。


年々有能さと美貌が増して、それゆえ、どんどん手が届かなく感じてしまう、彼女の憧れの君に。きっとそう。自分では釣り合わないけれどマリアンヌなら、と溜飲を下げている切なる乙女心なのだ。


そう、ルーカスに……このルーカスに?


クロエは軽く頭を抱えた。


五年ぶりの会話が求婚だったり、一ヶ月間手紙を出すだけで会いにも来なかったり、会ったらクロエの頬をつねろうとしたり、それなのに唐突に去ってしまったり、宝石商へ行ったと思ったら息を切らしてかけもどってきたり、とんでもなく意味のわからない行動をする、乙女心を理解できそうにないルーカスに? 


結婚したとして、クロエはルーカスについていけるのだろうか? 到底、友情以上に愛されるとは思えない……


クロエは自分の考えにハッと気づき、慌てて打ち消した。


いえいえ、まさか。プラントハンターを諦めて数年、クロエはサポート役か元締めの植物商に就きたいと思っているだけで、そこに”結婚”とか”恋愛”とか”令嬢”という文字は入ってこないんだから。


……が、そこに無理矢理ねじ込まれるように、クロエはモニークのじっとりとした視線を感じていた。


いや、だから違うんだって。そもそも、クロエには温室と庭園があればいいのだ。それに加えて、国外の植生植物の調査ができるなら、それに勝るものはない。


そうなのだ。クロエには植物のことしかわからない。だからクロエに、妖精の扉に宝石を隠したのが誰かなんて、わかるはずがない。ルーカスはどうして探偵になって欲しいなんて言ったんだろう。


クロエは急に怖くなった。


今までは違うとわかっていたかもしれない。でも事前に対策もできなかった今回は、そんなことは誰にもわからない。ルーカスがあの扉の中身を知ったら? あの扉の存在を知っているのはこの家の者以外ではクロエだけ。もう一人の幼馴染は外国へ留学中だ。この中では、よくこの家に来ていて、レオナから髪かざりまでもらったクロエが一番疑わしい。


ルーカスに疑われたら。断罪されてしまったら……




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ