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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case17.見初められた令嬢と不可抗力の探偵
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17-8.本当の目的

「私と男爵様?」


男爵って……結構な年上だったけど? いいおじさまだったけど、お互いに、なんの条件も満たしてない。


「そう。別に財産目当てを考えれば、おかしなことじゃない」

「でも……私、他国の男爵に嫁ぐほど、困ってないし、大恋愛をしたわけでもないし、失態を犯したわけでもないわ」

「だが、君の影響力は高く、仕事をするにも良さそうだからね。君とマリアンヌ様がいれば最強だと思ったようだよ」


クロエは呆れて肩をすくめた。


「安易だわ。そんな仕事、するわけないじゃない」

「そうだけど。でも、男爵はいい方だったろう? だから、僕が君と婚約解消していなくなれば、傷心の君を、男爵はきっと心から同情して優しく慰めるだろう。それは予想がつく。それにほだされて、結婚させようとしたんだ。それで、部下たちは、僕に、婚約解消を要求したんだ。絶対にしないって、蹴ったけどね」

「でも、そうしないと命が危ないって、ルーは言われてたんだぜ」

「それを言うなよ」


ベンジャミンの横やりに、ルーカスが口を尖らせた。クロエには聞かれたくなかったようで、心配そうにクロエを振り向いた。


「クロエ……」

「まぁ、命あっての物種よ。婚約解消して、さっさと帰って来ればよかったのに」


言われると思った、という顔をしたルーカスは、クロエを撫でていた手で、彼女の腕を掴んで力を込めた。


「……そんなの絶対に嫌だよ。君が僕以外の誰かと結婚するなんて」

「するわけないでしょう。そうなったら、私からあなたに申し込めばいい話だわ。だから気にしないでよかったのよ」


クロエは鼻を鳴らしてルーカスの言葉を一蹴した。ルーカスが驚きに目を丸くした。


「本当に?」

「何が」

「クロエから申し込んでくれるの?」

「当たり前じゃない。言ったでしょう、責任とってもらうって。探偵だのなんだのって、散々振り回されたのよ。プラントハンターになるにもやりたかった仕事そのものはできないし、関連の仕事につけるかどうかもわからないし……その上、この後に及んで好きでもない相手と結婚してなるものですか。えぇ、責任とって結婚してもらいますとも」


クロエが半ギレで言うと、ルーカスが頬を緩めた。


「そう……」

「な、何?」

「なんでもないよ。そっか……そうかぁ……」


言いながら、ルーカスはクロエを眺め、ニコニコと笑っていた。頬が緩みっぱなしで、ちょっと怖い。


「……マリアンヌ様、ルーカスは一体どうしちゃったのかしら」

「クロエ様……、きっと嬉しいんですわ」

「何が?」


クロエが首を傾げていると、ルーカスの腕がクロエに伸び、ヒョイっと引っ張られた。


「ルー、危ないわ」

「んふふふ……クロエ、抱っこしてていいかな?」

「いいけど……どうしちゃったの?」

「いいんだ。そうだよね、いいんだよね……んふふ……」


怖い。クロエは弱りながら、ルーカスに尋ねた。


「それで、子息はどうするつもりだったのかしら?」


だが、ルーカスは全ての緊張が解かれたように、クロエの髪に顔を埋め、ゆるゆると目をつぶっていた。


「話……」

「クロエ、俺が話を続けよう。男爵子息のこと?」


ベンジャミンが気の毒そうにルーカスを見て、クロエの注意を自分に向けた。クロエはルーカスを放っておくことにし、ベンジャミンの言葉に頷いた。


「あら、ベン、ありがとう。そうよ」

「子息は、あの後、ほうほうの体で帰ったことにして、マリアンヌ様と仲良くなるつもりだったんだよ」


クロエは首を傾げた。


「どうして普通に仲良くしようとしないの」

「いや、だって、相手はルーカスだぞ……」

「でも彼らの想像では愛人だったのでしょう? 相手が誰であれ、愛人より男爵子息の本妻の方が良いじゃない?」

「でもルーカスの方が良い男だ」

「えー、でも私は愛人は嫌だわ」


ルーカスが不意に顔を上げた。


「僕の愛人でも?」

「イヤに決まってるわ。甲斐性なしに決まってるもの」

「僕が?」

「あなたが二人も三人も同時に大事にできると思えないわ。そんなに器用な人じゃないでしょ」

「クロエはよくわかってるね」


んふふ、とルーカスはまたゆるゆると微笑んだ。怖いので無視し、クロエはベンジャミンに質問を投げた。


「あの時、小屋の窓からルーカスたちの様子を覗いていたのはなんでかしら」

「個人的な嫉妬じゃないかな……子息は悪くはないけど、ルーカスに比べたらさすがにね。だから、ま、ルーカスが殴る蹴るをされてるのを楽しくご覧いただいてたわけさ」

「まぁ……」


わからなくもないけど、普通は嫉妬なんてしない。あまりに遠ければ、嫉妬なんで吹き飛んでしまうものだ。クロエから見たマリアンヌのように。嫉妬するほどルーカスは彼にとって身近だったんだろうか。それとも身の程知らずだったんだろうか。


すると、ようやく正気に戻ったルーカスが、クロエの頬に優しくキスをした。


「ま、クロエが軽く殴って気を失ったわけだけど。ありがとう、クロエ」


全く意に介さずに首を傾げたクロエは、自分がルーカスのそれに慣れてしまったことに気づいた。


慣れない方が良かったのかしら? ここは逃げ出すべき?


クロエはちらりとルーカスを見たが、ニコニコしているだけだったので、考えないことにした。


それよりも、真相を知りたい。どうしてこうなってしまったのかを。




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