17-7.騒動の後
一連の騒動が終わり、クロエたちはぐったりと疲れきってしまった。
だが、国賓が狙われたこと、それ以上に脱税や違反者の手引きなどの犯罪をしていたことで、どの国でも大きなスキャンダルになってしまった。体調や反応を考慮し、ベンジャミンとマリアンヌは滞在を延ばし、クロエたちとしばらく過ごすことにした。
その間に、クロエたちの国のリチャード王太子殿下と、滞在国のマルギット姫君の婚約が正式に発表された。クロエたちの話題が長引かないようにと配慮してくれたのか、めでたい話題にすぐに国民たちの意識は移った。特に、リチャードに関しては、これまで浮いた話題もなく、貴族たちがヤキモキしていたこともあり、一つの落とし所ということで、大いに歓迎されたのであった。
四人とも体調も戻り、そろそろ動けるかというところ、ルーカスが国からの手紙をひらひらとさせながら、居間でお茶を飲んでいた彼らに切り出した。
「今回のことで、帰国命令が出たよ」
「当然だな」
ベンジャミンが澄まし顔で頷き、ルーカスは笑いながら同意した。
「まぁね。僕のこともそうだけど、主にクロエを慮ってね……エマニュエル殿下は、僕と結婚してからまたおいでってさ。このことでこの国を嫌いにならないでほしいと、姫も心配しているそうだ」
自分の名前が出て、クロエは目をパチクリとさせた。
「嫌いになんてならないわ」
「でも君は大変な目にあった」
「こんなこと問題ないわよ? プラントハンターよりずっと命の危険が少ないもの」
「……だけど、君は今後、僕の妻となって、国の外交の顔になるんだからね。ケアをして、安全な生活を心がけよう」
「結婚したからって、危機は変わらないと思いますわ」
すると、マリアンヌが断固とした口調で割り込んできた。
「クロエ様が有能なのはわかりきったことです。もしかして、プラントハンターに抜擢されて、国には戻ってこないかもしれませんわよ?」
言われたルーカスはすぐさま返事をした。
「それなら僕もついていく」
「足手まといだろう」
「ベンジー」
たしなめるように友の名を呼んだルーカスを無視するように、マリアンヌが驚きに口元を押さえた。
「まぁ、ルーカス様が足手まといなんて、……思いもよりませんでしたわ」
「マリアンヌ様、真に受けないで」
思わず口を挟んだクロエを無視し、マリアンヌは深刻そうにうつむいた。
「でも言われてみれば」
「マリアンヌ様」
するとまたクロエの言葉を無視し、ルーカスが朗らかに会話を引き取った。
「僕が同じようにマスターすればいいことだ。何が必要だったかな。猟銃はクロエより上手だし、体力はあるし……接近戦はやや不足か。実戦あるのみかな? その前に帰ったらまた訓練をさせてもらおう。しばらくしていなかったから体もなまっているだろうし……今回はとっさに動けなかったからな。実力不足を感じたよ」
クロエはギロリとルーカスを睨んだ。
「冗談はほどほどにして。これ以上続けたら、私、ここを出てくわよ」
「ごめんごめん」
笑いながら謝り、ルーカスはクロエの隣に腰を下ろした。まったく。にっこりと微笑めばクロエが許すと思っているんだから。……なんでばれているのかしら。
クロエがため息をついた時、マリアンヌが元に戻って話題を変えた。
「でも一体、なんだったんでしょう? 彼の本当の目的は?」
「クロエの予想通り、主にマリアンヌ様だったよ。……というか、クロエとマリアンヌ様、かな」
「私も?」
クロエは驚いて声をあげた。マリアンヌも不思議そうな顔をしている。
「そう。王宮のことは関係あったみたいだ。君の評判は、この周遊ですごく良くなったんだよ。だって、なんてったって、あのリチャード王太子が、君に頭が上がらない、なんて言ったんだから」
「嘘でしょ。あの戯言を」
「殿下の冗談は冗談にならないんだ」
「ひどいわ」
ほらね、探偵なんて本当にろくなことがないんだから。
クロエはじっと見つめたが、ルーカスはクロエの腕を愛おしそうになでるだけで、視線にはなんの威力もなかった。
「まんまと引っかかったのが悔しかったんだろ。でも、時すでに遅し、だ。殿下は姫に心を奪われてしまっていた。文句は言えない……ま、気持ちはわかるよ」
ベンジャミンが肩をすくめて、じっとクロエを見つめた。睨んでない?
「何よ」
「別に」
ベンジャミンがふっと視線を外した。自分が蚊帳の外だったのが悔しいらしい。
「喧嘩しない。男爵子息はね、クロエと男爵の結婚を目論んだんだ」
ルーカスの言葉にクロエは首を傾げた。