17-6.まるで探偵のような
「……まぁ、私たちが博士の研究所へ行ったからかもしれないけど……でも、博士だけでももしかしたら確認したかもしれないし……」
「そう。でも、彼らにはわからないみたいだったよ。僕は、つまり、男爵に嫌われていたのかな。普通に話してくださっていた気がするんだけど……まぁ、腹の探り合いなところもあるしなぁ」
「でもマリアンヌ様は私のお友達よ。ルーが連れてきたわけでは……愛人だと思われてるってこと? 結婚してもいないのに、もう愛人が? すごいわね、ルー」
「いや、違うから」
「知ってるわよ。そう思われるくらい、ルーって納得させちゃう何かがあるんだろうってことが、すごいってことよ」
そこまで言って、クロエは首を傾げた。
「でも変ね、男爵は知ってらしたわよ。いいお友達でいいですねって……まさかあれも、皮肉だったのかしら? 本妻と愛人が仲良くていいね、みたいな? でも私、まだ妻じゃないけど……この後に及んで、マリアンヌ様と比べてどっちと結婚するか決めるってこと?」
「何言ってるの? 僕はクロエと結婚するから。絶対に、クロエとじゃなきゃ結婚しない」
「わ、わかってるわよ」
そんなに強く言わなくても……クロエが赤面すると、ルーカスは一瞬キョトンとし、嬉しそうにクロエを抱きしめた。
「本当にわかった?」
「わかったわかった、いいから離して、苦しいわ」
「しょうがないなぁ」
ニコニコとルーカスが腕を離す。
「でも、本当に男爵が計画したのかしら……」
クロエが思わず呟くと、三人は首を傾げた。
「何って?」
「変よ。男爵ではなくて、男爵子息なんではないの? あの方、マリアンヌ様を気に入ってらしたし」
「それだけの理由?」
「事業は息子さんに任せてるって言ってらしたわ。その商売も、息子さんの独断じゃないの? 良い取引先っていうのが、つまり、密猟者の斡旋で、マージンで稼いでいたってことなんじゃ?」
「でももう、男爵を捕まえに行ってるはずだし、この周辺も探しているから、すぐに見つかるよ」
急に不安になってきた。
「……私、探しに行ってくる」
「クロエ、だめだ」
「いいえ。いくわ」
「クロエったら……仕方ないな」
すでに動き出したクロエの後を、ルーカスが慌てて追いかけてくる。
「ひっ……あら、さっき殴った人だわ」
クロエが小屋を出たところには、暗闇に放置されていた男が転がったままだった。
「……死んでる?」
「まさか。殴っただけよ」
「クロエが?」
「そうよ」
「どうなさいましたか?」
話していると、様子見に回っていた王宮騎士が顔を見せた。
「それが……」
クロエが説明をしている間に、ルーカスが彼の確認をした。
「よかった、息をしてる……あ!」
「どうしたの?」
「男爵子息だ」
「まぁ」
クロエは驚いて目を見張った。
「どうしてこんなところに?」
ルーカスが困ったようにクロエを見上げた。
「クロエ……殴ったって言ってたけど?」
「だって……面白そうに小屋の中を伺ってたんだもの」
「……なるほど」
「これは、クロ確定だな」
「男爵のことはまた別として、子息は確定だ」
ルーカスの言葉に、王宮騎士は目を輝かせた。
「クロエ嬢のお手柄だ」
「まるで探偵のようですね! お見事です!」
王宮騎士が笑顔でクロエを称賛する。ベンジャミンが吹き出すのを我慢していた。
「とにかく、これで一件落着、か?」
ルーカスが言い、四人で息をついた時、ガタン、と音がした。
クロエが振り向くと、ベンジャミンが目を回して倒れていた。
「ベンジャミン様!」
マリアンヌが叫んで駆け寄った。
「まぁ、どうしましょう、死なないでくださいませ!」
こう言ったことに慣れている王宮騎士たちは、困惑した様子で取り乱したマリアンヌを見つめていた。
まぁ、でも、確かに。あのマリアンヌが一瞬にしてただの女の子になってしまうなんて。ベンジャミンは罪な男だ。本人は全く気付いていないところが特に。
「大丈夫よ、マリアンヌ様」
クロエはマリアンヌの肩に手をかけた。
「ベンジャミンは寝ているだけだから」
「寝て……?」
「ベンジーは昔からそうなんだ。極度の緊張と疲れが重なると、安堵した時に一気に力が抜けてね、ぐったりと寝てしまうんだ。体力ももともとないものだから、いつも気をつけているんだけど」
「そうでしたの……」
ホッとした様子で、マリアンヌはその場にへたり込んだ。王宮騎士たちもホッとした様子で、ベンジャミンの容態を確認している。そして、クロエが言ったことが合っていると頷き、安心してくださいとサインを送ってきた。
「ほらね、大丈夫だったでしょう」
すると、マリアンヌは頬を赤くして恥じらいながら、モジモジとクロエを見上げた。
「ありがとうございます。あの、私……」
「いいのよ。ベンには内緒にしておくから。ね、みなさん、そうでしょう?」
クロエの言葉に、その場の人たちが勢いづいてなんども頷いた。