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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case17.見初められた令嬢と不可抗力の探偵
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17-2.小屋での乱闘

そして今、小屋の中でクロエは、力一杯相手に回し蹴りを加えると、銃の後ろで腹を殴った。そして相手が倒れたと見るや、肩を足で押さえ、銃を喉元に突きつけた。


「ひ……」


クロエが睨みを効かせると、彼は怯えたように身を縮めた。


「あ、悪魔……」


忘れてた。本国ではずっと、顔が怖いとか意地悪だとか、悪役令嬢だとか嫌われ者だとか、それらがとても嫌だったけど。


クロエはニヤリと笑った。彼は涙を流し始めていた。


今回ばかりは自分が悪役令嬢だってことが、なんともありがたいくらいだ!


「私のルーカス……とベンに傷一つでもつけたら、許さないから」


そして、喉元に突きつけた銃をさらに強く押した。もちろん、銃は弾を抜いてある。だが、気が動転している彼が気付くはずもない。彼はあっけなく目を回して倒れた。


「……フゥ」


クロエは銃を手元に引っ張ると足を下ろし、よろよろと座り込んだ。


もう絶対ヤダ、こんなの。


クロエは先ほどから動きっぱなしだった。


見つけた小屋に慎重に近づくと、二人の男が小屋を見張っていた。クロエは落ち着いて一人ずつ銃で殴って気を失わせ、小屋に入った。ギョッとした顔のルーカスと、気を失っているベンジャミンの姿に逆上する間もなく、小屋の中に一人いた見張りが襲いかかってきたので、クロエは銃を剣のように使って応戦したところだった。


でも……初めて実戦で使った。それにしては、うまくやれたのでは。


とにかく、プラントハンターになるために、様々な訓練を受けておいて本当に良かった。マデイラ博士には感謝しても仕切れない。


確かに、クロエに諦めさせるため、山奥や森林の奥で、一人で他人や猛獣と戦う練習をやらせた。それで、ついていけず、クロエは諦めた。マデイラ博士はものすごく強かったから、仕方がないと思った。


でもあの経験がこんなところで役に立つなんて。


「……僕とベンジーが同列?!」


振り向くと、ルーカスが不満そうにつぶやいていた。あまりよく聴こえず、クロエは立ち上がってルーカスとベンジャミンの縄を解くために近づいた。


「ベンはまだ気を失ってる?」

「あぁ、……僕をかばって……」


クロエは暗い表情のルーカスの頬に、そっと手を添えた。


「気にしすぎちゃダメよ、ルー。同じ状況になったら、きっとあなたも同じことをするんだから」

「……確かに」

「今、縄を解くわ」

「ありがとう……大の男が簡単に捕まるなんて恥ずかしいもんだよ……」


それでも、ルーカスはまだ落ち込んでいた。クロエは後ろ手に縛られた背中へ向かい、しゃがんで縄の結び目を確認し始めた。


「そんなことないわ。屈強な男たちに十人も囲まれたら、さすがに手も足も出ないでしょう」

「でも……」

「それに一人だけ逃げるなんてこと、あなたにできるはずもないわ。もちろん、ベンにもね」

「ちぇ。僕一人だけ特別ってことはないの?」


口を尖らせるルーカスに、クロエは結び目を解きながら笑った。


「何言ってるの。ルーカスはいつだって特別よ。昔からずっと……初めて会った時だって……あら、この結び目、ちょっと難しいわね。緩める方向を間違えたわ。ちょっと待ってて」

「初めて会った時って、……覚えてるのかい?」

「えぇ、もちろん。庭の芝生が気持ちよくて寝てしまって……ほら、解けた……うん、あまり肌に傷がついてなくて良かった」

「クロエ」

「あまり動かさないでいたのね。偉かっ」


不意に、ルーカスが振り向いた。そしてクロエを抱きしめ、話していたクロエの唇を自分の唇でふさいだ。


何をするの、とクロエは言おうとしたが、言葉にならなかった。いつもと違って、冗談のようなからかうような軽さはなく、強く真剣だったからだ。


「震えてる」


いつの間にか甘美な時間はなくなり、ルーカスがクロエの手を自分の手で包み込んでいた。


「あ……」


確かに、クロエの手は震えていた。むしろ今は、身体中が震えていた。緊張が解けたからだろう。急に恐ろしさが襲ってきた。あの時、彼らにやられていたら。ルーカスが死んでしまったら。ベンジャミンがいなくなってしまったら。


「怖い思いをさせてごめん。……こんなこと、絶対にさせちゃいけなかったのに。僕と一緒にきたばっかりに」

「私は大丈夫よ、ルー。実戦は初めてだったけど、覚悟はしていたもの。……もちろん、プラントハンターとしてだけど……仕事じゃなくて残念だわ」


クロエが言うと、ルーカスは唖然としてクロエを見た。そして微笑むと、もう一度、唇を重ねた。今度は優しく、甘く。何度も、何度でも。


ルーカスは改めて自分の気持ちを自覚した。勇気があって、こんなことは何でもないと言ってのける強さを持つクロエ。決して人に甘えない彼女が、弱音を吐ける場所でありたい。頼りにしてほしい。そんなことをルーカスが思うのは、彼女だけなのだ。






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