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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case17.見初められた令嬢と不可抗力の探偵
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17-1.馬と拳銃

早駆けする馬上で、クロエとアノンはひそやかに話し始めた。


「何人くらいいた?」

「男が十人くらい。強盗や掻っ払いをするようなグループで、強いんだ」

「そうなのね」

「でも、さすがに殺人はしない。それをする肝っ玉はないよ」

「わかった。よかったわ」


クロエは頷いて、馬を急がせた。


気持ちばかりが急いても仕方ない。馬はそれ以上には走れないし、人は馬ほど速くは走れない。馬に任せて、正確に目的地に向かうまでだ。


ルーカス、ベンジャミン、男爵令息。みんな無事でありますように。


男爵に知らせないできたけれど、多分大丈夫だ。気づく頃には、マリアンヌが博士のところへ着いている。おそらく、男爵も大ごとにしたくなくて、警察には届けていないはずだ。なんとかその前にルーカスたちを助けられれば、アノンも安全に移動することができる。


「止まって!」


急にアノンが言い、クロエは慌てて馬を止めた。だが、遅かった。


暗闇から、男たちが数人、馬をめがけて棍棒らしきものを持って走ってきた。


馬がやられてしまう。クロエはとっさに馬の頭の向きを変えようとしたが、山の細い一本道では折り返すのは難しい。


「嬢様、逃げて!」


アノンが叫び、馬を降りようとしたが、クロエはそれを止め、向かってくる男たちに銃口を向けた。


「お嬢さん……身なりのいい服着てんな」

「小屋の男を助けに来たのか。残念だ。お嬢さんは、向こうには着けない。俺たちと一緒に来るんだ」


彼らはにやにやと笑い、歩を進めた。


「よく見ればいい女じゃねぇか」

「これはお楽しみが増えたな」


アノンがクロエの腕の中で震えていた。


「嬢様……あたしが」


連れてこなければ。アノンの言葉を飲み込むように、クロエは鋭く言った。


「動かないで。撃つわよ」


すると、一人の男が前に出た。


「そんなもの打てないだろ」


言いかけている途中で、クロエは引き金を引いた。ズガンという音とともに、男の太ももが撃ち抜かれる。悲痛な叫び声が響いた。


「どうかしら? 弾は六発よ」


腰を抜かしている男を尻目に、アノンが唖然としてクロエを見た。


「ためらいもなく……」

「なんてぇお嬢さんだ」

「生きるか死ぬかの時に、ためらってなどいられないわ」


クロエはもう一度、銃を構えた。


「次は誰? 命は取らないから安心して。でも動くと、……どうなるかわからないわよ?」


その言葉を聞いて、アノンがヒステリックに笑い出した。


「こりゃ、すごい。あんたたち、逃げるなら今だよ! このお嬢様はあんたたちを警察に突き出すよ、確実に! 勝ち目はないね」


すると、彼らは目を合わせて頷いた。そして、アノンに向かって乱暴に口をきいた。


「ウルセェ、だがな、俺たちのせいにはならないんだ」

「なぜよ」

「お前たちがやったように、工作してるからな!」

「まさか……」

「俺たちはおさらばするが、お前たちはまだ残るだろ? 証拠はお前らの寝床に誘導するようになってるんだ。関係ない顔して、どうせ捕まるのはお前らだ!」


そして、彼らは足を撃ち抜かれた男性を担いで、逃げていった。クロエは彼らの姿が消えるまで、その後ろ姿を銃で狙っていた。


「アノン」


彼らの姿が見えなくなると、クロエはアノンに声をかけ、馬から降りた。


「あたし」

「行きなさい。あなたの馬なんだから、その馬に乗って行って、この地から早く移動するの。証拠はできるだけ消して」

「でも」

「もうわかるわ。その上でしょ? 銃は貸してね。誰かがいても、銃で適当に脅していくわ。命を消さないように気をつける」


アノンが目に涙をためて首を横に振った。


「お嬢様、」

「早く行って。また会う時があれば、その時、再会を喜びましょ。銃はその時に返すわ。あなたはどの国にもどの土地にも行くんだから。私もあなたに会えるように、頑張るから」


クロエが励ますように言うと、ようやくアノンは泣きながら頷いた。


「あ……ありがとうございます! 案内をこんなところで終えてしまって」

「いいのよ。私こそ助かったわ。みんなを助けられるはずだもの。それじゃ、またね」

「えぇ、また会う日まで! お元気で!」


アノンは馬に乗ると、走って行ってしまった。


一人だ。


馬もいない。


クロエは深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。




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