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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case16.遠乗りをする若旦那とお茶会に行く婚約者
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16-3.見ていてもどかしい

温室で植物たちの様子を見て、これならすぐに出かけられるくらいだと安心した。


ガラス越しに外を眺めていると、ちょうど、数頭の馬と、男性数人と女性の姿が見えた。後ろ姿はマリアンヌ。じっと見ていると、男性の見分けもついた。


マリアンヌの手を執拗に握っているのは知らない顔なので、きっと男爵令息なのだろう。ベンジャミンは呆れるほどにポーカーフェイスで、ルーカスは全く気にしてない。


遠くから見ているクロエには、幼馴染のベンジャミンが、若干、イラついているのも、マリアンヌを守るように立っているのもわかるが。一緒にいるルーカスには、それはわからないのだろう。何しろ、マリアンヌは慣れていて、笑顔でスルーするだけなのだから。


この家の主人なんだから配慮してあげなさいとクロエは思うが、みんな笑顔だし、そこまで嫌な態度でもないのだろう。声もなく、遠くから見ているだけではわからないことも多い。


しばらくすると、マリアンヌが温室へやってきた。


「こちらだと思いましたの」

「マリアンヌ様」

「お見送りをしてまいりましたわ」


マリアンヌがうっとりと両手で頬を包んだ。


「ベンジャミン様、とっても素敵な外出着でした」

「見てたわ。あなた、男爵令息にとっても気に入られていたわね」

「そうですか? いつもあんな方ばかりで……よくわかりませんの」


さすが天使令嬢、扱いが違うわ。


「すごいわね。私なんて、誰もあんな風に丁寧に接してくださらないわ。どちらかというと、逃げたそうっていうか」

「まぁ。クロエ様とお話しする価値がわからないなんて、がっかりな殿方だわ」

「褒めてくれるのはありがたいけれどね、マリアンヌ様。私はそんなにできる人じゃないのよ」


マリアンヌはベンジャミンに惹かれているし、ベンジャミンも好きなのだろうが、だからと言って、二人とも単純にお付き合いしましょう、とできる立場にない。


ベンジャミンは自分の感情より、世間体を気にする、典型的な貴族令息だ。他人事であるクロエとルーカスのことだって期待せずに諦めた。


距離を少しずつ縮め、手に手をとりあわなければ、きっと意味がないのだろう。


だから今が一番難しい時期なのに。


男爵令息に気を使って、ベンジャミンがマリアンヌと距離を置いたら、マリアンヌは一生、自分から好きな人と両思いになれないかもしれない。


気が進まない。


だが、いかなくてはならない。


クロエは軽く息を吐き、マリアンヌを励ますように声をかけた。


「準備をしなくてはね」

「そうですね。……今回は私、あまり服を持ってこなくて……」

「それなら、私のを着ればいいわ」

「でも」


クロエはマリアンヌを引っ張って部屋に戻ると、すぐにクローゼットを開けた。この周遊中に、あらゆることを想定して揃えられたドレスがみっちり入っている。


「まぁ……なんて素敵!」


マリアンヌが感嘆のため息をついた。


「仕立屋のマダムがすごい頑張ってくれたの。仕事ですからね、それなりに国力アピールできるものも一定数は必要だったから、大変だったわ。ルーカスは全部新調したかったみたいだけど、周遊に出るまで二ヶ月もなかったんだもの、無理だったの。私も家から結構持ってきてて……」


言いながらクロエは、端に追いやられていた落ち着いたローズ色のドレスを取り出した。クロエはローズ・ボンボン・ドレスと呼んでいて、ふわっとした可愛らしいデザインだ。気の迷いで作ったものの、家で一度だけ着て、そのままお蔵入りになっていた。


「このドレスはね、正直、似合わないから汚れてもいいかなぁって思って持ってきたの。でもマリアンヌ様にぴったりだわ。だから着てみたらどうかしら? あなたは私より若いし、可愛らしいし小柄だし、ほら、侍女たちが直してくれるわ」


クロエが振り向くと、目を輝かせた侍女たちが頷く。マリアンヌは慌てたようにクロエと侍女を交互に見た。





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