表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case16.遠乗りをする若旦那とお茶会に行く婚約者
136/157

16-1.遠乗りの前に

王宮での舞踏会から離れて二週間、クロエたちは元の生活を取り戻していた。


マリアンヌもそろそろ帰る頃で、ベンジャミンも、次の仕事を機会に教授のいる大学へ戻ると言っている。今回は、山の散策とそこを管理している男爵家の訪問だ。


「若旦那様、ベンジャミン様。馬のご用意ができました。このあとは遠乗りのご予定がございます。侍女はお嬢様たちに同行いたしますが、従者は同行しない、プライベートなものでよろしいでしょうか」


朝食の後、リビングで話をしていると、執事が恭しく頭を下げた。ルーカスが頷くと、ジェイコブは話を続けた。


「お住まいになられる男爵のご子息が、ご案内してくださる予定です。そろそろお迎えに来る頃でしょう。お嬢様方は男爵家へお茶に向かい、夜は男爵家でご夕食の後、ご宿泊、明日みょうにち、再度の散策後、お帰りいただく予定になっております」

「……わかった。準備をしよう」


ルーカスとベンジャミンが立ち上がり、ドアに向かった。すると、マリアンヌが楽しそうに声をあげた。


「……私! お食事の準備を見てまいりますわ。ランチを持っていかれるんですよね? お二人が好きなものが入っているか、確認させてください」


そしてマリアンヌは目を輝かせて立ち上がり、あっという間に二人を追い抜いて厨房へ行ってしまった。


「元気だな……」


唖然としてベンジャミンが言い、あくびをしながらドアの向こうに消えた。


あの二人、本当に、全然進展してないのね……


クロエが呆れて見ていると、部屋を出るところでルーカスが振り返った。


「クロエ、本当に行かないの?」

「行かないわ。マリアンヌ様が男爵家でお一人になってはかわいそうだもの。でも明日は行くからね。片側は残しておいて! 絶対よ?」


クロエが言うと、ルーカスは破顔して嬉しそうに頷いた。


「うん、もちろん。他には?」


言いながら、ルーカスはクロエに足早に近づいた。クロエは首をかしげながら考えている。


「えぇと……そうね、どんな花が咲いていたか、教えて。草木の区別はつかないだろうけど、花はわかるでしょ。黄色かったとか青かったとか、ゆりみたいだったとかタンポポみたいだったとか、それくらいは」

「うん、わかる。覚えてくるよ。他は?」


ルーカスはクロエの腕を取ると、クロエを促すように見た。


「他に? ……そんなにないわ。頼まれても困るでしょう?」

「ううん、困らないよ。なんだって聞いてあげるから」

「でも」

「いいんだよ、帰りに街まで行ってドレスを買ってこいって言ってくれても。僕は宝石でもお菓子でもなんでも買ってくる。ウサギを獲ってきたっていいし、もちろん、植物を買ってきたっていい」


クロエは驚いて思わず一蹴してしまった。


「……いらないわ!」


というか、どれだけの用件をこなすつもりなんだ。できるわけないだろうに。


何か言われるかと思ったが、ルーカスはつまらなそうに肩をすくめただけだった。


「残念だな」

「なんで急にそんな……今まで頼んだことなんてないでしょう?」

「でも、クロエにおねだりされるのが嬉しいんだ。もっとおねだりして?」

「やぁよ。そんなことになったら、私の悪役令嬢っぷりに拍車がかかるわ」


クロエがため息をつくと、ルーカスはクククと笑った。


「僕に大金を使わせてるって?」

「そう」

「ドレスだって宝石だって植物だって、大した金額にならないじゃないか」

「大した金額よ。あなたの家の感覚とは違うの」

「でも」

「あのパリュールだって、すごい値段なのよ! あげもしないのに二十の若造があんな高い髪留め買う? それで引き出しに押し込んでおくなんて、おかしいわよ」


クロエがルーカスの顔に指を突き立てると、ルーカスはしょんぼりと視線を落とした。


「だって……クロエはもらってくれないと思った」

「どうして。五年前は、何も知らなかったでしょう?」

「僕の誕生日には踊ってくれたけど、……君は他の男の方が仲が良かった」

「……他の男?」

「僕も忘れた。でも優しくていい男だった。クロエは誕生日に、その男から何かもらってた」

「??」

「誕生日よりちょっと早いけどって、お茶会で、何か……」


クロエは考えて、あっ、と思いついた。


「あぁ、あれは……!」


でも他の男だなんて、何を言っているんだか。


「呆れた。あなた、自分の義理の兄の顔も覚えてないの?」

「え?」

「あの頃は、あなたのお姉さまが結婚なさったでしょう。その時に、私、花嫁のお手伝いをしたのよ。覚えてる? だから、そのお礼をいただいたのよ。あなたのお姉さまと同じブローチを」

「……義理の兄……?」

「外国の王子だもの、その後、あまりお会いになれないから、きっと忘れてしまったのでしょうね……」


それにしたって忘れるなんておかしいけど。


「とにかく、早く準備に行ってらして。あまり遅くなっては、ベンも男爵もお困りになるわ」

「見送りしてくれる?」

「このあと温室で植物のチェックをしたいから……」

「わかった。植物は優先事項だ。もめたくない。じゃ、ここで見送りの挨拶をしよう」


言うと、ルーカスはクロエを抱きしめた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ