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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case14.国賓の友人と調査中の悪役令嬢
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14-6.新なる決意

でも多分。マリアンヌの想い人であろうベンジャミンは、きっとなんでも知ってる。


ルーカスのために情報収集したくらいだし、ルーカスと親しい令嬢として、マリアンヌを徹底的に調べ上げるなんて、簡単なことだ。出世大好きコネ大事、そんなベンジャミンがさりげなく情報収集するのは難しいことじゃない。


だからきっと、逆に聞けなかったんだろう。何を知っていると思われていて、何を知らないはずなのか、ベンジャミンはわからなかったから。


街でのお土産だって、買っていったら、なんでこれを好きなのを知ってるの? と言われるのが怖いからだろう。


穏やかなのに匂わせ大好きで、その場の主導権を握りたがるベンジャミンが。


クロエは申し訳ない気がしたが、マリアンヌが自分から言ってくれない以上、指摘するわけにはいかない。


クロエは微笑んだ。


「きっと、お恥ずかしいんですわ。その方は、ご自分に自信がないんです」

「そうでしょうか?」

「だって、私が想像するに、その方って、勉強大好きで、出世大好きで、社交も活発で、権力者の腰巾着と言われても気にしていなくて、顔を広げて、今や、貴族社会の情報通みたいな人なんだと思うの」

「まぁ、よくお分かりですのね」

「当たっていて良かったわ。そんな人だったら、純粋で無垢で、お優しいマリアンヌ様に、自分がふさわしくないと思っているんじゃないかしら」

「そんなこと……」

「マリアンヌ様が夢見ているような、憧れのプロポーズとか贈り物とか、全然できないんじゃないかしら。その方は、ロマンチストなタイプじゃないから、あなたの気にいるようなことが、さっぱりわからなくて、戸惑ってらっしゃるのよ」


だから、余計にマリアンヌに惹かれたのは意外で、どうにも必然に思えた。


現実主義で地位や名誉が一番で。だけど、実際は、マルギットが出くわしたトラブルを解決するために、奔走してくれるような。誰にも弱みを見せられないルーカスが、唯一クロエに甘えた時、それを応援するような。マリアンヌに迷惑をかけたくないと悩んで、気持ちを押し隠すような。


そうだった。本当は、ベンジャミンは純粋でいい人だと、クロエはよく知っている。ベンジャミンがマリアンヌにふさわしくないなんて、全く思わないし、お似合いだと思うのに。


すると目を潤ませ、マリアンヌはクロエを濁りのない目でじっと見つめた。


「その方は、私を少しでも気にかけてくださってるでしょうか。クロエ様が言うように、戸惑ってらっしゃるのなら、……私のことをもっと知っていただけるように、頑張ってもいいのでしょうか」


本当に可愛い方。いったいどうしたら、求婚しないでいられるんでしょう、ベンジャミンは。普通の男なら、きっとこんな顔をされた即求婚するわ。


でも、普通の男って?


クロエは考えてみれば、”普通の”男性のことは全く知らなかった。プラントハンターの修行と失望のせいで、貴族では幼馴染以外とはあまり交流がない。ルーカスは斜め上の思い込みが激しいし、ベンジャミンは予防線を張るばかりで本心を言わないし……クロエの幼馴染はずいぶん歪んでる。二人と付き合いのあるクロエは、自分だけは違うと思いたいが、どうにも自信がなくなってきた。


「マリアンヌ様……」


本当は、ベンジャミンと両思いなのだと言ってあげたい。一言、ベンジャミンがあなたを愛してるのよ、と言えれば。その方がずっと楽だし、楽しいし、いいことづくめだ。


でも、やはり、人の気持ちを勝手に言うことはできない。マリアンヌもベンジャミンも、それを喜ぶとは思えなかった。


クロエ本人としては、今すぐベンジャミンのところへ走って行って気持ちを伝えて、と言ってしまいたいところだけど。


「えぇ、とてもいいと思うわ。それじゃ、その方のためにも、殿下とのお話は、阻止しなくてはね」

「そうしたいところですが、でも……」

「どうするの?」


まさか、王太子と結婚するとかいうんじゃ……


「どうしたらいいか、わからないんです。先日の妖精のお祭りは参加できませんでしたし、今回も王族に招かれて、本国の王太子殿下に会ってしまいそうで、怖いんです。もちろん、自惚れてはいませんが、”及第点”であれば、陛下のご指摘で、殿下は妥協してしまうかもしれません。夢のような嫁ぎ先だとはわかっています。でも、……」


クロエは落ち込むマリアンヌの両肩に手を置き、励ますように優しく力を入れた。


「私に任せて。どうにかして、殿下をどこかの令嬢に一目惚れさせる」

「ですが」

「私自身のためでもあるんだから、なんとか考えるわ。マリアンヌ様も協力してくれる?」

「でも……クロエ様はそうしたことがお嫌なのでは。今まで、クロエ様が嫌々ながら解決なさったこと、知っています。いつも申し訳なく思っていました。ですから、もうこのようなことは……」

「何を言ってるの! 私は確かに、策略めいたことは嫌いだけど、でも、あの時も今も、気持ちは同じよ。私自身もそうだけど、あなたのことも助けたかったの。今回だって同じ。マリアンヌ様もご自身を守りましょう。思ってらっしゃる方のため、もちろん、マリアンヌ様のため。そして、あなたの幸せを願ってる、私たちのため! ね、一緒に頑張りましょう、マリアンヌ様!」


マリアンヌは目を輝かせた。


「ありがとうございます! でも……私は何をすれば?」


クロエは少し考え、頷くとマリアンヌに目を向けた。


「あなたは、王宮内で社交に励んで。いろんな方とお話をして、私にツテを作って欲しいわ。例えば、そうね、……催事担当長官とかね」


すると、マリアンヌは明るい顔で頷いた。


「わかりました! いろんな方とお話しするのは、得意です!」



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