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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case14.国賓の友人と調査中の悪役令嬢
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14-5.あなたの想い人

そうだわ。いい機会だから、王太子殿下との結婚回避について相談しよう。


クロエはバラの花をもてあそびながら、城へ戻っていた。


その前に、マリアンヌが本当にベンジャミンを好きかどうか、確認しておいたほうがいいかも。あの時は横槍も入っていなかったから、のんびり考えていたけれど、今はちょっと違う。マリアンヌとベンジャミンの関係を、別で考えるべきか応援するべきか、確かめる必要がある。


部屋に戻りたくないし……でも何で戻りたくなかったんだっけ。


クロエは首を傾げたまま、マリアンヌの滞在する部屋へ向かった。


「マリアンヌ様」


部屋にいた彼女に声をかけると、マリアンヌは喜んで部屋に入れてくれた。ソファに座り落ち着くと、マリアンヌは微笑みながらクロエに尋ねた。


「どうなさったんですか?」

「えぇと……」


なんだかひどく寂しそうに見え、クロエは言葉を続けられなかった。


「その……マルギット様から、お花をいただいたの。あなたに差し上げようと思って」


そう言って、クロエは苦し紛れにバラの花を差し出した。ピンクのバラに、マリアンヌは嬉しそうに顔をほころばせた。


「ありがとうございます! マルギット様も、お優しい方ですわ……」

「マリアンヌ様……どうかなさいました?」

「いいえ。なんでもありませんの」


ベンジャミンのせいな気がする。


「……付かぬ事を聞くけれど、マリアンヌ様。先日、お慕いする方がいると……おっしゃってたわね」

「え? えぇえ? えっと、その……はい」


マリアンヌの顔が一気に真っ赤になった。


「私、その方のことがとっても気になっておりますの。いったいどんな方? マリアンヌ様に釣り合うような、立派な方なんでしょうか? マリアンヌ様は純粋な方だから、とっても心配なんです」

「す、素敵な方だと思いますわ……」

「具体的には?」

「い……言わねばなりませんか」

「いいえ、強要はしませんわ。でも……私たち、お友達じゃない? 先日も、私、マリアンヌ様に胸の内を打ち明けて、心が落ち着いて、とっても頭が整理されました。ですから、マリアンヌ様にもそんな気持ちになっていただきたくて……でも……、私じゃ無理かしら」


クロエがため息をつくと、マリアンヌは慌ててそれを否定した。


「いいえ、そんなことは! でも……その……恥ずかしくて……」

「お名前は聞かないわ! マリアンヌ様から見てどんな方なのか、教えてくださる? どんな方をお好きになるのかしら? とっても興味があるわ」

「好奇心いっぱいですね、クロエ様。探偵の素質がおありだとルーカス様がおっしゃるのは、きっとその素敵な瞳ですわ。とってもキラキラしてお綺麗なんですもの」

「私の話はいいの。ね、どんな方?」


ついにマリアンヌはため息をつき、話し始めた。


「……わかりました。そうですね、その……一見、とっても上昇志向がありそうで、自分の利益以外には興味がない方だという噂でした。以前、政略結婚をお好みで、結婚するなら地位の高い地味な令嬢とか、潤沢な資産を持ったお金持ちの行き遅れの令嬢がいい、とおっしゃっていたと、聞いたことがあります。でも、実際は、とてもお友達思いの方で、その方達のためなら、利益がなくてもご助力なさる、素敵な方なんです。時々……お会いした時には、少ししかお時間はありませんでしたけど、礼儀正しくて、親切で、誠実で……おかしな話ですけど、異国の地で、私のことを純粋に、一人のただの令嬢としてみてくださった方は初めてだったんです」

「まぁ、さすがマリアンヌ様ね。おモテになるわ……」

「あ、いえ! 普通のパーティーならそんなことはないのですが、異国のパーティーでは、やはり、結婚相手を探すような方が多くて……でも、その方は最初から、そのように接することなく、信頼できました」


なるほど。前半は納得いったけど、後半は、いったい誰なんだろう? クロエの知らない男の人かもしれない。ベンジャミンを焚きつけすぎなくて良かったのかもしれないわ。


「まぁ。なんだか夢みたいに素敵な方ね。そんな人、存在するのかしら?」

「もちろん、存在しています! 細身の長身に、すっきりした目鼻立ち、形の良い眉に眼鏡がとってもよく似合うんです! それで、少し長い髪を後ろで束ねてらっしゃって、笑顔は穏やかで、いつも素敵で……」


良かった。それ、ベンジャミンだわ。眼鏡に長い髪、すっきりした目鼻立ち、これらが当てはまる人はそうそういない。


クロエはホッと胸をなでおろした。


「あぁ、いらしていたようで、良かったですわ。それじゃやっぱり、国に帰ったら、その方から再度、求婚されるのかしら?」

「ま、まさか!」

「あら、どうして? 今までそのような方に出会ったことがなかったけど、出会ったとおっしゃってらしたわよね? だから、あなたに一度求婚なさってる方なんだと思ったの」


クロエがとぼけて尋ねると、マリアンヌは少し寂しそうに笑った。


「違います、違うんです。私が勝手に、素敵だなぁって思っているだけなんです。私のことなんて、きっと興味がないんだと思います。聞いてくださったこともないですから」


みんなマリアンヌのことを知りたがるのに、一番知って欲しい人には知ろうとしてもらえない。マリアンヌはそんな横顔をしていた。




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