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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case14.国賓の友人と調査中の悪役令嬢
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14-2.忙しい合間に

……うっかり承諾しそうになった。クロエは雑念を追い払って手でばつ印を作った。


「ダメ」

「……なら、僕がぎゅっとするならいいだろう? 婚約者なんだし、甘えてもいいよね? ほら、ここに座って」


ルーカスがソファに座り、にっこりと笑って膝の上をポンポンと叩いた。クロエは仕方なくその上に座った。ルーカスがぎゅっと抱きしめ、クロエの髪に顔を埋めた。


「クロエ……」


くすぐったい。


クロエはルーカスは背中を優しく撫でた。すると、こわばっていたルーカスの体が、ゆっくりと緩んでいく。


本当に疲れていたんだわ。きっと気が張っていたんだろう。何しろここは、他国の王宮だから。いつものように、”らしくない”ルーカスでいられる場面はとても少ない。


「クロエと一緒にいると落ち着く……やっぱり一緒に仕事を」

「しません」


クロエは思わずルーカスの膝から飛び降りた。このまま話していたら、うっかり本当に頷いてしまいそうだ。


「どうして」

「ルーカスのサポートはしたいけど、同じ仕事はできないわ。国に帰ったらプラントハンターの仕事をまた探すんだから」


それに、侯爵夫人になる勉強もしなければならないだろうし、本格的にルーカスのお相手として舞踏会に出るとなると、嫌がらせだってあるかもしれないし、リチャード王太子のお相手探しだって警戒しなければならないし、マリアンヌの恋路だって心配だし……


とてもじゃないけど、ルーカスの仕事の手伝いをしてる時間はない。


クロエは思ったが、それとは裏腹に、ルーカスは寂しそうにクロエの顔を覗き込んだ。


「そうだけど……僕が全て手配するって言っただろう? クロエはしなくていいんだ。だからさ、配分を考え直さない? クロエの一番はプラントハンターなのかもしれないけど、僕の仕事がたて込めば、僕は助手なんてできなくなるし、クロエは僕からずっと離れてしまうんだろう? そうしたら、誰が君に近づくか……気が気じゃないし、心配だ」

「私のことが信用できないってこと?」

「そうじゃない、けど……もっと一緒にいたいんだ」


切実な様子で甘えてくるルーカスを見ていると、クロエは自分の感情がどうにも始末に負えなくなった。


あぁ、甘やかしたくなる。一緒にいるわって言いたくなる。今はそんな時じゃないのに。


クロエは頭を振って雑念を追い出した。


「でも……今はとにかく、私たち、殿下のお相手を考えなくちゃならないわ。そのためにも、あなたも私も、別々に情報収集をしなければって、話になっていたじゃない」

「クロエじゃないなら……」

「私じゃないなら、その人が不本意な結婚を強いられてもいいっていうの?」


クロエはルーカスに訴えた。確かにクロエはこのまま回避できるかもしれない。だが、それだけでは不十分だ。


「でも」

「興味はなくても、友情とか……優しい気持ちはあるでしょう? ルーだって、不本意な結婚には夢が持てなくて嫌だったんだもの、強要されるのが辛いことはわかってるわよね? マリアンヌ様にだって、ベンにだって、……殿下にだって、そうなってほしくないわ」

「マリアンヌ様は諦めてるかもよ? どうせ好きな人なんていないだろうし」

「いないからいいの? 違うわ。仕方ない時だってあるけど……でも……だからこそ、足掻いたっていいじゃない……」


マリアンヌ様が恋をしたって、それを育てたっていいじゃない? 芽生えかけた気持ちを潰していいとは思わない。


クロエはなんだか悲しくなってしまった。


他ならぬマリアンヌだから。いつも変わらぬ笑顔でクロエを見てくれて、助けてくれ、応援してくれた。クロエの気持ちをいつも考えてくれた。そんな彼女には、誰よりも幸せになって欲しいのだ。


「ベンジーも?」

「えぇ、そうよ。私はベンにだって、納得して結婚なり独身を貫くなりしてほしいわ。そろそろ、ベンは自分の殻を脱ぐ時よ。ものすごい心配性で、諦めグセがついてて、自分の地位を失うのが怖いなんて」

「ベンジーのことは後にしない? クロエはいつも人のことばっかりで……でも僕は今疲れていて、嫉妬で頭がおかしくなりそうなんだ。ちょっとでもいいから、僕だけのことを考えて」


言うと、ルーカスはクロエを優しく抱きしめた。


「でも、ルーカスは解決できる私が良いのでしょ?」

「え?」

「ルーカスの期待通りにできなくて、がっかりするんじゃない? 探偵ができないなんて、……見込み違いだったって、……嫌いになったり、しない?」


クロエが言うと、ルーカスは慌てて否定した。


「何言ってるの? 僕がクロエにがっかりするなんてこと、ありえないよ。嫌いになるわけがない。だから、焦らないで、もっとゆっくりしよう?」


クロエは頭を振った。


「そうしたら、ルーカスが守ってくれるの? 解決してくれるの? できないでしょう、忙しんだから」

「でも、クロエ、君がする必要はない」

「それならなんで、私に探偵になれって言ったの?」

「クロエ……」

「私に解決して欲しいって言っといて、無責任よ」


ただの八つ当たりだ。そんなこと、わかってる。でも、クロエはそれを受け入れられるほど、落ち着いてはいられなかった。


「ごめんなさい、ルーカス。頭を冷やすわ。また後で」

「クロエ。行かないで」


ルーカスが掴もうとしたが、クロエはそれをするりと抜けて足早にドアへ向かった。振り返ると、ルーカスが呆然とクロエを見ていた。




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