2-4.解決の髪留めと友情の印
興奮しているマリアンヌに、クロエは素直に微笑んだ。
「お上手ね」
「本当のことですもの」
「あなたも当事者なんですもの、何かいただいたのではなくて?」
「えぇ。このブローチをいただきました」
マリアンヌがクロエに見せてくれたのは、マリアンヌの瞳の色と同じグリーンの宝石でできたブローチで、大きさも使っている石の総量も、クロエがいただいた髪留めの半分の価値にもならない。
その大きな差に戸惑ったものの、薔薇の手配をしたことを喜んでもらえたのだと、クロエはプラスに解釈することにした。お礼はすでに送ってしまったし、今更、大げさにするのも無粋だ。
「あら、可愛らしい。お似合いね」
「えへへ。それで私、実は、ウェントワース夫人にお断りして、お揃いのものを作ってきたんです!」
「ルーカスに?」
「なんでですか? クロエ様ですわ!」
「まぁ……ありがとう」
本当に、マリアンヌは石だけが違う同じブローチを、クロエの目の前にかざした。そして、そのアイスブルーの宝石がはめ込まれたブローチを、クロエに胸元につけてくれた。
「お友達の印です」
わぁ。泣きそう。
クロエが感激していると、マリアンヌはさらににっこりと微笑んだ。
「あちらがクロエ様が手配された薔薇ですのね。素敵! 本来ならあの日は、こんな風に薔薇が咲いていたはずだったのですね」
両手を胸の前で叩き、マリアンヌがはしゃいで言った。
「そうなの。マデイラ博士が花を切っていなくてよかった。欲しがっていたお友達に花束であげてしまうところだったから」
「そうでしたのね。花束も素敵でしたが、こうして散策しながら見るお花は、また別格ですね」
「わかっていただけて嬉しいわ、マリアンヌ様」
クロエが笑いかけると、マリアンヌもにっこりと笑ったが、すぐに心配そうに首を傾げた。
「ポールはどうしているのでしょう? ほとんどお会いしていないのに……勘違いさせてしまったのなら、私も何か、改善しないとならないのではないかと思っているんですが」
「お気になさらないで。改心して真面目に働いておりますわ。次に不正をしたりすれば、私がすぐに報告に上がることになっていますし、飲み屋の女の子には振られてしまったようですしね。ウェントワース夫人をもう困らせないと思います」
「そうですか……大丈夫なのでしょうか?」
「えぇ、ポールのような者は、逆に手元に置いて泳がせる方がいいのです。解雇して悪の道に進ませてしまっては、夫人の評判も悪くなりますし」
「なるほど……そんな解決策もあるのですね」
「白黒はっきりつけられなくて、がっかりなさった?」
「いいえ! きっとそれが良い結果を生むのでしょう」
マリアンヌは納得したように言うと、にこりと微笑んだ。
「それよりも、クロエ様がお元気そうでよかったです」
「まぁ……マリアンヌ様、ブローチといい、気遣ってくださって、本当にお優しいのですね」
「いいえ、当然ですわ。助けていただいてるんですもの。私、自分でもできるように頑張りますわ」
そう言ってガッツポーズをとるマリアンヌが、不意に何かに目をとめた。
「クロエ様、あれはなんでしょう?」
彼女が指差したのは通り過ぎた木の根元で、クロエはそこに、懐かしいものを見つけた。