13-5.フラワーフェスティバルの会場
フラワーフェスティバル、別名”妖精祭り”の会場は素朴ではあったが、特産の花で所狭しと飾られ、温かみのある雰囲気に仕上がっていた。
見回すと、みんなそれぞれ、思い思いの衣装を着てきている。村人らしい素朴な普段着が大半だが、クロエたちより、ずっと煌びやかだったり、妖精っぽい衣装のカップルもいた。家族で妖精になっている人たちもいて、微笑ましい。メインイベントであるパレードに出そうなカップルが、そこかしこに見受けられ、甘い雰囲気にもなっていた。
とにかく、みんな、幸せそうで、楽しそうだ。
森を育むのに、植物の繁栄は欠かせない。それには人の思いやりと慈しむ気持ちが必要だ。このフェスティバルは、その気持ちを呼び起こさせるいいイベントだ。
クロエは嬉しくなって、花の間をフラフラと散歩し始めた。
これはアガパンサス、ジニア、ポーチュラカ。クレマチス、プルメリア、トケイソウ。
ヒマワリ……あれはノウゼンカズラ?
このフェスティバルには、出会いを求めてやってきた男女もたくさんいる。一人でふらりと歩く笑顔の美しい妖精は、その場にいた男性たちをフラフラと引き寄せ……はしなかった。
「どこ行くんだい、僕の妖精さん」
「ルーカス」
そう、彼らは”見たら死ぬ輝きを持つ妖精”役を担ったルーカスが、クロエの腕をとったことで、すごすごと引き返したのだった。
「僕を置いていくなんて、ひどいな」
半ば息を切らし、必死で探して追いついたのを気づかれないように、ルーカスは優しく微笑んだ。クロエはただ驚いて、とりあえず謝った。
「……ごめんなさい? でも、アガパンサスが綺麗でしょ?」
「……うん。そうだね……でも気をつけて。君も綺麗なんだよ。花の中で本物の妖精みたいだった。おかげで他の男が引き寄せられて……」
すると、クロエは笑った。
「まぁ、何言ってるの。私、みんなの嫌われ者よ? 一人でいても、誰も近寄らないわ」
「それは僕らの国でのイメージの話で、この国では通用しないよ」
ルーカスは嫌な予感が当たったとため息をついた。もっと慎重にするべきだった。ルーカスがこのフェスティバルにでたがらなかったのも、これを懸念していたからだ。
これまでの周遊の間、今まではずっと公務と友人付き合いだけで、ルーカスのそばから離さなかったし、離れてもクロエの動向は把握できた。その上、ルーカスの婚約者ということで、クロエの情報はだいたい伝わっていた。
でもここは違う。誰もがクロエと会うのは初めてで、ルーカスは関係なく、クロエの人柄だけが判断基準になるのだ。あと、その美しさが。
「君のアイスブルーの瞳には、僕以外を映したくない」
ルーカスの言葉に、クロエが目を丸くして頬を染めた。
クロエは初めて出会った頃と同じく、可愛らしい。そして、その美しさに気がついた五年前より、ずっと綺麗になった。……なってしまった。誰にも気付かれて欲しくないと思っていたのに。
「な……何言って」
「僕のことだけ見て?」
たまらなく愛しいと、ルーカスはその唇をゆっくりと指でなぞった。
今度こそ、ルーカスだけを見て欲しい。
「おい、お前ら……」
「え?」
クロエはハッとして振り向いた。ベンジャミンとマリアンヌが言いにくそうにしながら近づいてきていた。
「見てて恥ずかしい。言いたくないんだが……注目されてるぞ」
言われて周囲を見回すと、確かに人の視線を感じた。
「う……わぁ……」
クロエは我に返って青くなった。ルーカスの甘さに取り込まれるところだった。危ない危ない。あんなに切なそうに頼まれたら断れなくなってしまう。
……断る必要もないのかも? でもしかし……
クロエが首をひねっていると、ルーカスが舌打ちして低い声で小さく呟いた。
「見せつけるいいとこだったのに」
「何か言った?」
「いいや? 注目されるのはいいことなんじゃないのかと思っただけだよ」
ルーカスがにっこりと微笑んだ。