13-4.話し合いと相談
「それなら僕たちには問題ないね。昔より今の方が、クロエはずっと綺麗だ」
「私は大して変わらないわよ。化粧と衣装で誤魔化されてるだけだわ。でもルーは驚異的ね。笑顔が食べちゃいたいくらい素敵なのはずっと変わらないんだもの」
「え? 食べ? え?」
「第二王子の話と合わせれば、裏付けも取れたようなものね」
顔を赤くするルーカスをおいて、クロエは気にせず話を進めた。
「殿下は恋愛もお膳立ても嫌……ね、それだけで難しいでしょう。さらに、王太子殿下の結婚には障害があると思うの」
「障害?」
「公爵様よ」
「公爵様? 問題ある? すごいいい人じゃない?」
「そうね、だけど……言ったじゃない? 公爵様が割り込んでくるだろうって。第二王子は言ってなかった? 王太子殿下は、叔父叔母が好きではないと」
クロエの質問に、ルーカスは考えを巡らせて、思いついたように、あ、と言った。
「……言ってた。確か……『あの人は叔父叔母の干渉が嫌いなんだよね。俺も苦手。いい人だから余計に。俺は流石に逆らえないけど、だからこそ、兄上が適当にあしらってるのを見るとザマーミロって思うんだ』って。変な兄弟だと思ったけど、まぁ、実際、父上の話なんて聞いてると、公爵様は過保護なんだよな。過干渉で……、ん? ……まさか、だから公爵様の”お気に入り”を受け入れないのか?」
「だと思うわ。公爵様を支持する方々は、多少はそれを知っていて、それがないように、私たちを陥れようとしたんだと思うの」
「じゃ、必然的にクロエかマリアンヌ様になっちゃうってこと?」
「いいえ。非公式な花嫁候補のことも、王太子殿下は全部知ってるんだと思うの。思い返したら、私もマリアンヌ様も、殿下にまともにご挨拶したことがない気がするのよ。変じゃない? それ、私とマリアンヌ様が候補に選ばれてることを知ってるからよ。で、それに反発してるの」
「……公爵様の手垢のついた令嬢は選びたくないが推された令嬢も選びたくない、ってこと?」
「そういうこと」
「うわ、めんどくさいな」
「とにかく、政治的な理由ではなかったのがわかっただけでもよかったわ」
「でもそれなら、クロエが選ばれることは絶対ないってこと? やったね」
ルーカスは嬉しそうにガッツポーズをとったが、クロエは頭を横に振った。
「それはわからないわよ。二転三転あれば、陛下が命令なさるかもしれないし。それはきっと、受け入れるのでしょうね。公爵様がお膳立てしたお見合いに行くくらいだもの」
「そっか……陛下か……殿下は尊敬なさってて、陛下のすることに間違いはない、ってくらいだからな」
「やっぱり、そうよね?」
「陛下は……君やマリアンヌ様を、気に入りそうだよな……」
難しい顔をして、ルーカスは言った。なんだかんだ、ルーカスはそれぞれの人となりをよく知っているようだ。
「本当? それは……困るわ」
しばらく黙った後、ルーカスは静かに頷いた。
「将来の王妃になる器があるという前提で……王太子殿下が一目惚れしそうな、手垢の付いていない令嬢を探すか、推されてない令嬢を探すか……、君たちとは関係ない令嬢を陛下に認めさせるか、の、三択で考えるしかないな」
「……でも、そんな人、いる?」
「本国にはあんまりいない気がするね。でも、今なら見つけられそうじゃないか? 周遊してる間にさ。何しろ、僕たちは友好国の視察をしてるんだから」
王太子殿下に好意的で、地位も見合う令嬢はかなりいる、とみてもいいということか。
「うまく見つかるかしら」
「大丈夫。見つけよう。人探しも得意なはずさ。探偵なんだから。ね?」
「縁結びは仕事の範囲じゃないはずよ」
クロエが口を尖らせると、ルーカスは笑った。
「それなら、プラントハンターは? プラントハンターなら、雄しべと雌しべの区別くらいはつくだろう? 相性だってわかるはずだ」
「まぁ。都合のいいことを」
それでも、ルーカスが大丈夫といえば、なんとなくできそうな気がしてくる。
「先に分かってたら、この妖精衣装も着なくてよかったかもしれないのにな」
ルーカスが渋い顔をするので、クロエは笑った。
「でも、ルーが妖精になったのを見られて楽しいわ」
「僕も楽しいよ。……でも、うるさい虫が寄ってこないか心配だ」
「フラワーフェスティバルだから、それなりに虫はいると思うわ。虫、嫌い?」
「いいや。クロエに寄り付こうとする虫がいたら、容赦しないってことさ」
「虫は受粉に欠かせないのよ。無駄な殺生は好きじゃないわ」
「仰せのままに、僕の妖精さん」
そう言うと、ルーカスはクロエの頬にキスをした。そしてうっとりとクロエの髪に顔を埋める。
誤魔化された気がするけど……ルーカスが笑顔だから……可愛いから、まぁ、仕方ないか……
ほだされる自分に嫌気がさしたが、とりあえず、クロエはそれについては忘れることにした。
そして、フェスティバルが終わったら、改めてマリアンヌとベンジャミンに話す約束をし、これから先の”結婚式”に気持ちを切り替えた。