表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case12.未知なる王太子と対策する花嫁候補
109/157

12-10.傾向と対策

そこでクロエは、自分が手にしていた手紙を思い出した。


「あ、そうだ」

「何?」

「手紙が来たんだったわ」


クロエがかざすと、ルーカスは気をとりなおすように、そちらに目を向けた。


「誰から?」

「サラ様にケイト様、ローリエ様……あと五人ほどよ」

「今、必要なこと?」


首を傾げたルーカスに、クロエは満面の笑顔で頷いた。


「ええ! 王太子殿下のことだけど、最近の動向よりもね、過去のことから何かわかるんじゃないかと思って」

「何が?」

「殿下のお好みの方よ。性格も含めて、何かがネックになって、殿下は一歩を踏み出せないか、興味がないんだと思うの。でも、あの国王夫妻だし、また何があるかわからないから、私たちで見つけるしかないと思うの」

「……僕たちで見つける?」

「そう。最近の情報じゃ、何も思いつかなかったから、どうにもならないかも、と思ったけど……視点を変えて、殿下の幼少の頃から五年くらい前までの中で、何でもいいから話を集めてもらうようにお願いしたの。一応、異国の地で殿下の話をせがまれた、って設定にしたわ。そしたら、いろいろな話をいただいたから……殿下の性格がわかりそう。これでもしかしたら、好みのお相手を分析できるかもしれない。そうしたら、探して、……殿下の好みのシチュエーションでお会いすることができる……といいなと、思って」


勢い込んで言うクロエを、ルーカスは少し嘲るように鼻で笑った。


「王太子殿下と、そんなに結婚したくないんだ? 将来は王妃になるという責任がイヤ? それとも、単純に気にくわないの? だから僕と結婚するんだろ?」

「何言ってるの? あなたと結婚するからよ。確かに、殿下とは結婚したくないのはそれ以前の問題だけど……あなたと結婚しないなら、プラントハンターになるために出帆するまでよ。あなたが私と結婚したくなければこんなことしないけど?」

「したいよ、僕だって。でも……あんな簡単に、殿下と結婚しておけばいいかなんて言うからさ。自信をなくすじゃないか」


ルーカスが口をとがらせ、クロエは急に申し訳なくなった。


あんな話をすべきではなかったし、その前の話を聞かれなくてよかったなんて、思ってはいけなかったのかも。むしろ、聞いて貰えばよかったのかしら。きっとクロエからは、ルーカスには一生言えないような気持ちなのだから。


「どうせだったら、その前の話も聞いていたらよかったのよ。私があなたの執事に侯爵夫人になれるかどうか聞いた話とか、マリアンヌ様の恋話とか、いろいろあったのに」

「ふーん。その話、もう一度してくれるの?」

「しません。私はこの手紙をまとめて、王太子殿下の性格分析をするんです」


クロエが気持ちを切り替えて言うと、ルーカスはため息をついた。


「僕は君の話を盗み聞きして落ち込んで、君は対策をしっかり考えて……僕、情けなくない?」

「それはその……私が悪かったわ。情けないなんて、思ってないわよ」


クロエは逆のことを考えて、大いに反省した。ルーカスが『クロエにプロポーズしなければよかった』と言っていたら、何も頭に入ってこなかったに違いない。


「本当に?」

「えぇ。あなたはとっても素敵よ。だから質問していい? ルーカスは、殿下について、何かご存知?」


ティーテーブルに座りながらクロエが言うと、ルーカスは頭を横に振った。


「いや……知らないけど」

「なら、私が整理し終わるまで、待ってくれる?」

「何を?」


何だろう。クロエは首をひねった。自分でもわからない。でも、ルーカスには待っていてほしい。クロエの準備ができるまで。


「えぇと……お茶をご一緒するのを……」


クロエがしどろもどろに言うと、ルーカスは少し躊躇いながら、クロエの顔を覗き込んだ。


「……そばにいてもいい?」

「いいけど……静かにしててよ?」

「うん。黙ってる。手伝えることがあったら、言って」


言うと、ルーカスはティーテーブルに座ったクロエのごく近くに椅子を並べ、ぎゅうと体を寄せてきた。


「……近くない?」

「”熱々のカップルは、隣同士に座って、手を握ったり見つめあったり、キスをし合うもの”って、言ってなかったっけ」

「そうだったかしら?」

「だから、そのようにするまでだよ」


言いながらルーカスは、クロエの腰に手を回し、クロエの肩に自分の顎を乗せ、クロエの手元をじっと眺めた。ひどく窮屈だった。


「やりにくいんですけど」

「僕も……目のやり場に困る」


言われた瞬間、クロエは思い切り立ち上がった。ルーカスが顎を打って、痛そうに座り込む。


何よ! こんなことなら、首まで覆ってあるドレスにすれば良かったわ! 今日に限って胸元の開いた服だなんて。何て恥ずかしいの!


「それなら……あなたも手伝ってください。この手紙を持って! 必要な部分をメモって! 一覧にしてください!」


耳まで真っ赤になったクロエの声が、温室に響き渡った。



case12 END


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ