12-8.フェスティバル参加の提案
「だから、マリアンヌ様に恋人がいるって設定なの。仮装すればベンかどうかわからなくなるだろうし、いいでしょ。それで、マリアンヌ様とその恋人が、将来本当の婚約式をしようね、的な婚約式てことで、ちょっとかわいくできるかなぁって。恋人がいるかもしれないって言ってもなかなか信じてもらえないかもしれないけど、ここでお遊びでもイベントに出たら、ちょっと信憑性が出るわ。将来結婚する時は、私に強制的にさせられたと言えばいいのよ。何と言っても悪役令嬢なんだもの」
そのまま恋人になって、結婚してくれて構わないけど。だが、”日和見主義の出世欲の塊”ベンジャミンは、手に入れたら針の筵になりそうな”天使の令嬢”マリアンヌとは、そう簡単に結婚してくれそうにない。
「二人はそれでいいの?」
ルーカスがマリアンヌとベンジャミンを交互に見た。そして、クロエをも見た。
「クロエも?」
クロエは首を傾げた。バレたかな。マリアンヌを応援したいって気持ちが。
「……? ダメかしら?」
できるだけスルッと強引に行きたかったんだけど。ルーカスは本当に衣装を着たくないらしい。
「あ、あの」
不意に、マリアンヌが声を発した。
「私……、その、ベンジャミン様にご迷惑だとわかってるんですけど……でも、ま、まだ、結婚とかは考えたことがなくて……王太子殿下なんて、さらに無理で……その……候補から外されたいんです。ダメ……でしょうか?」
おずおずと、上目遣いで、マリアンヌはベンジャミンを見た。ベンジャミンの表情が凍りついた。これはノックアウト。
「あの、それで、ルーカス様。お着替えになるのは嫌かもしれませんが、……クロエ様が妖精の衣装を着たところ、見たくはありませんか? 私、とても見たいです。とっても綺麗だろうなって……でも、それには、ルーカス様もご一緒なさっていただかないとなりません。カップルイベントなんですもの……だから、その……」
「よし。出ようか」
ひどいノセられようだ。だが、マリアンヌはパァっと顔を明るくし、クロエを見て頷いた。それだけで、まぁ、いいのかもしれないとクロエは思い直した。
「よかったわ。これでなんとかなりそうね」
クロエが言うと、ルーカスが軽くぼやいた。
「……ちぇ。どんな衣装を着せられるんだか」
「それはもう、エレガントでよく似合う、あなたの侍女たちが考え抜いた、素敵な衣装よ」
「俺も着るのか」
同じくぼやいたベンジャミンに、クロエは頷いた。
「当然でしょ」
「クロエのくだらない趣味に付き合うのも大変だな、ルーカス」
否定するのは構わないし、笑うのも構わない。だが、これでも考えたのだ。他に案を出せなかったのに、くだらないなんて、どの口が言える? たとえ、マリアンヌの前だから、かっこつけたいだけだということがわかっていたとしても。
「……ベン。私を敵に回すとどうなるか、身を以て知るといいわ」
「な……」
「フェスティバルでの衣装、覚えてらっしゃい。ベンが泣いて嫌がるほど幻想的な妖精風の衣装にしてもらうわ!」
「そ……ただのイベントだろ?」
「何よ? 他の案も出せないで、私の案をくだらないなんていうからよ! 悔しかったらマリアンヌ様にプロポーズしてみろっていうのよ! それならこんな茶番しなくて済むんだから!」
「おま……その場の勢いで言うな! 相手の気持ちを考えろ!」
「あなたに言われたくないわね。首を洗って待ってらっしゃい」
マリアンヌがオロオロと困っている。ルーカスは半笑いで、私たちの様子を見ていたけれど、……やっぱり、どこか不機嫌だ。
気のせいじゃなかったのかも。クロエとマリアンヌの会話は聞かれていたようだ。ただし、どこからどこまでを聞かれたのか、全然わからないのが困ったところだった。