12-7.聞かれた? 聞かれてない?
クロエは思わずマリアンヌと顔を見合わせた。
「ん? いや、今来たところだけど」
足音を響かせながら、ルーカスとベンジャミンの声が近づいてきた。
「そうか? ずいぶん立っていたように見えたけど」
「気のせいさ」
聞かれたかしら。どこから? どこまで? 心臓の音が耳に響く。
でも、ベンジャミンと入ってきたルーカスは何事もなかったかのように椅子に座り、テーブルの上のフェスティバルの案内用紙を手に取った。
「それで、何がなんだって?」
クロエに、にっこりと優しく微笑むルーカスに、クロエはホッとして返事をした。気のせいだったのかも。
「……フラワーフェスティバルなの。妖精を模したパレードよ。それが終わると、司祭様が来て、カップルに祝言をくださるの。ま、ちょっとした恋人同士のイベントだけど、それなりの地位の人も来て、あえて、ここでご成婚なさる方も居るらしいのよ!」
「これが何か?」
クロエはマリアンヌをちらりと見て頷いた。
「これに参加してみない? これなら、言い訳はなんとでも通るの。『体験したかった』でも『婚約式』でも『結婚式』でも! 地元のイベントだし、参加するまで誰にもわからないわ。イベントに参加したら、もらえるプレゼントもあったり、会場で特別に注文して作ってもらえる指輪もあるの。それを一番いいランクで作ってもらえば、立派な成婚の指輪になるわ」
だが、ルーカスはあまり嬉しそうではなかった。確かに、着替えたり出かけたり、イベントの予定に従ったりと、ルーカスが嫌いなことが満載だ。ルーカスは、気ままに適当に好きな服で、だらだらしたい人なのだから。
「……クロエが参加したいだけじゃない? 草花畑が有名な観光地だし、近くには原生林があって、まだ植物研究家がたくさんいるし」
「そんなことは……」
バレている。
だが、そこに割って入ったのはマリアンヌだった。
「だとしても、ルーカス様、いい案ですわ! 視察として、このような地元のお祭りに参加なさるのも、非常に歓迎されることです。土地を治めてらっしゃる子爵様にご相談なさっては?」
「こんなこと、する意味あるかな?」
「ありますわよ! クロエ様とルーカス様のご結婚のためですわ。国に帰ったら、私たちが証明いたします、ね、ベンジャミン様!」
「え? あ、あぁ、うん」
押され気味のベンジャミンをよそに、ルーカスは少しつまらなそうに書類を弾いた。
「でもさ……そんなに王太子妃になりたくないからって、僕と急いで結婚する? こんなイベントも出る?」
「どうした? やけにつっかかるな、お前。前は乗り気だったじゃないか」
「別に……だって、面倒だし……これじゃなくても、他にあるんじゃないかと思って」
クロエはため息をついた。
「ルーは……やっぱりやりたくないのね。ちょっと盛装しなきゃならないし、面倒だもの。迷惑はかけられないわ。でも……それなら……マリアンヌ様とベンだけでも、やってちょうだい?」
すると、弾かれたようにルーカスが顔を上げた。
「なんで? ベンジーとマリアンヌ様も?」
「だって、私たちは婚約してこっちに来てるから、まだ他の手段も考えられるけど、マリアンヌ様には必要よ。直近ではこれしかないんだもの。私たちが参加すれば、もっとお忍び感がなくて、よかったんだけど……」
「何? それ?」