12-5.恋の相談
すると、マリアンヌはもじもじしながら口を開いた。
「クロエ様」
「何?」
「私、今まで、求婚をされたことが何度かあるのですが……」
何度と言わず数多でしょう、とは思ったがツッコミを入れず、クロエは相槌で話を促した。
「結婚なんて、あまりに遠い話で、考えられませんでした。私とのことを真剣に考えてくださった方には申し訳ないのですが、想像がつかなくて……でも……」
「えぇ」
「クロエ様たちを見ていたら、少し身近に思えてきて……」
「そうなの?」
「あの、は、伯爵家って、どこも似たような感じなのでしょうか? クロエ様のおうちはどのような雰囲気でしょうか? クロエ様の弟君は……どのような方と結婚する予定なのでしょうか? その、私のような男爵令嬢でも、……歓迎されるのでしょうか……?」
これはこれは。
クロエは頬が緩むのを必死で止めた。マリアンヌが聞きたいのはきっと、ベンジャミンの実家、クール伯爵家のことだろう。クロエは何度かお邪魔したことがあるから、クール家のことはそれなりに知っている。でもそこは、あまり言わない方がいいかもしれない。
「うちは……もちろん大歓迎よ。マリアンヌ様が来てくださったら大喜びだわ。爵位も関係なくはないけど、やはり、人柄もあるから。マリアンヌ様が、そのお人柄で、王太子殿下の花嫁候補になったように、伯爵家であなたを拒否するような家は、きっとないでしょう」
「そう……でしょうか……」
マリアンヌが目を伏せた。クロエは安心させるように、柔らかく微笑んでみせた。
「マリアンヌ様もそんな風に思うなんて……ちょっと安心してしまいました」
「どうしてですか?」
「実はね、私、ちょっと不安なの」
「何がですか」
「私に侯爵夫人が務まるか……わからなくて」
クロエが言うと、マリアンヌが弾かれたようにクロエを見た。
「執事のジェイコブに、私に仕えてもいいのかって聞いたことがあったの」
「執事さんは、何て?」
「ルーカスと結婚するのが、私で嬉しいって」
「問題ないじゃないですか」
「でも考えてみれば、本人前にしたらそう言うしかないじゃない? 優秀な方だし、眉唾だなぁって」
「でも……、みなさん、クロエ様のことお好きなようですわ」
「特に何もしてないのに変よね」
「きっとルーカス様を元気にしてくださったからですわ。それはクロエ様にしかできないことですもの」
マリアンヌがはしゃいで言ったけれど、クロエはどうも納得がいかなかった。
「そうかしら? だったら嬉しいけど……でも、結婚するんだし、ルーカスの元気の素ってだけじゃ、ちょっとダメじゃない?」
「クロエ様はそれだけじゃありませんわよ」
「でもほら、プラントハンターを兼業するには、公務も手早く終わらせる必要があるし」
「そうですわね! クロエ様ったら本当に多才ですわ」
マリアンヌが目をキラリとさせてクロエを見た。私は思わず微笑んだ。そう言ってくれるのはマリアンヌだけだ。
「もともと、私はふさわしくないって言われていたし、悪役令嬢だし、トラブルに巻き込まれるし、非公式だけど、王太子の花嫁候補だし、陛下と賭けのネタにされてるし……でもせっかくルーカスが選んでくれたんだから、私、認められるために頑張ろうと思ってるの。だから、マリアンヌ様も一緒に頑張りましょう?」
「でも私は……誰とも結婚していないし、そもそも、……お相手もいないし……」
「でも心に決めた方はいらっしゃる、そうでしょう? マリアンヌ様が嫁入り先の話を聞きたがるなんて、今までなかったことよ。つまり、そういうお相手がいるのよね?」