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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case02.お呼びでない令嬢と扉を開ける悪役令嬢
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2-2.届かなかったらしい手紙

ルーカスは手紙に何を書いたと言ってたんだっけ?


クロエはルーカスの隣で歩きながら、ぐるぐると考えていた。


あれは一時の気の迷いだったとか。犯人が捕まって嬉しかっただけだとか。マリアンヌのためにありがとう、あれはマリアンヌへの予行練習だったんだ、とか……


考えたけれど、先ほどルーカスの言った言葉は違った。


どうやらこのまま、あの失言を実行するつもりらしい。


ふとルーカスの視線を感じて目を向けると、ルーカスは目を細めて首をかしげ、クロエを見つめていた。


「な……なんですの?」

「昔みたいに一緒に歩いてくれるんだと思うと、嬉しくて。プロポーズして良かった。今日のドレスもとてもよく似合ってるね。こないだのアプリコット色も良かったけど、今日のアメジスト色のストライプのドレスは一段と君の雰囲気に合ってる」


五年ぶり二度目の会話は誉め殺しか。なんと返事をしていいかわからず、クロエは仕方なくスルーした。


「見ている人が誰もおりませんもの」

「見ている人がいたら、手を振り払う?」

「そういった時、そもそもルーカス様は私の手など取りませんでしょう?」

「……手を取っていいの? ダンスに誘っても? 嫌じゃないの?」


ルーカスが不思議そうにクロエを見た。クロエは驚いた。嫌だったことは一度もない。ただ、周囲の視線が恐ろしくて逃げ回っていたことは認めよう。そういうことに無頓着なルーカスには言っても仕方ないことだけれど。


クロエは肩をすくめた。


「今は別に、昔を懐かしんだっていいでしょう」

「懐かしむ? それだけじゃないよ。クロエと僕は将来も一緒にここを歩くんだから」

「ルーカス様。そのお話なんですが」

「まさか……断るの?」


ルーカスの目が悲しそうに曇った。


う……


クロエの心臓がドキリと鳴った。そうだ。クロエは昔からルーカスのこの目に弱いのだ。クロエはとっさにルーカスから視線を外した。


「探偵なんて……意味がわかりませんもの」

「そう? 似合うと思うけどな」

「でも」

「だって、クロエは探偵になりたいから、悪役令嬢のままでいるんだろう? そうすれば、解決役として首をつっこむことができるから」


根本的に違う。クロエは眉をひそめた。


「巻き込まれているだけです」

「でも、クロエが本当は悪役令嬢なんかじゃないことは、明白じゃないか。それなのに、訴えもしないでそのままにしているのは、そうすれば、クロエに罪を被せようと、犯人が狙ってくれるから……解決したいから。違う?」

「違いますわ。そんなに正義感の強い人ではありませんから」

「正義感なんて言ってない。これは君の意思で、欲望なんだよ」

「ルーカス様……」


クロエが困って名前を呼ぶと、ルーカスはにっこりと微笑んで、クロエの顔を覗き込んだ。


「前みたいにルーって呼んでよ。小さい頃みたいに」

「無理です」

「こないだは呼んでくれたのに」

「あれは……うっかり間違えただけで」

「それでもいいよ。もう一度、友情を復活させようよ」

「友情?」

「そう。クロエは結婚しないで、探偵になりたいんだろう? 普通に結婚したら、探偵なんてできないからね。でも、僕と結婚すれば、家のことなんてしなくていいよ。探偵をすることができる」


友情って? プロポーズが友情? 


つまり自分が独身主義のルーカスは、クロエもするつもりがないと勝手に思って、協力するように言ってるのだ。だがこちらにだってそれなりに理想があるのだが……


悩んで損したわ。


クロエを嫌いだったルーカスが、いきなり好きになったり愛を告白したりするわけない。


クロエはムッとしていいのかホッとしていいのかわからず、複雑な気持ちを顔に出さないことに決め、ただゆったりと微笑んだ。


「……家業を変えようかなんておっしゃってませんでした?」

「それでもいいけど、さすがにクロエが嫌がると思ってやめたんだ。でも、助手くらいなら僕はできるから」

「そんなつもりはありません」

「結婚しないの?」

「そうじゃなくて……探偵になるつもりなんて、ないの」

「結婚してくれる?」

「それも違うわ!」


だいたい、ルーカスはクロエに拘ってる場合じゃないはずだ。マリアンヌと結婚する話はどうなったんだろう? 結婚するなら彼女くらいできた女性でなければと言っていたのはルーカスだったのでは? マリアンヌと意気投合して、結婚まで秒読みなのではなかったの? 


もしそれすらも嫌なのだったら、自分でどうにかしているはずだ。探偵になりたいのだったら。


「だって、探偵になりたいのは、あなたなのでしょう? どうして私なの?」


クロエが言った時、ルーカスが足を止めた。


「ほら、君が植え替えを指示してくれた薔薇だよ」


みると、青い空と緑の葉の間にアプリコット色の薔薇が咲き誇り、甘く爽やかな香りが漂っていた。


「あぁ……良かったわ」


クロエはかがんで根元から木の上まで花の確認をし、ちゃんと根付いているのを見て、ホッと息をついた。


「ルーカス様、ありがとうござい」


言いながら顔をあげると、ルーカスが動きを止めていた。


「どうかなさいましたか?」


なんだか見たことのない顔をしている。見たくなかったと言いたげな、考えたくない、知りたくない、といった表情を。





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