表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギセイギセイギ  作者: this1s1t
1/12

オープニング①

 この物語を作ろうと思ったきっかけは、6年前の秋に金属の廃棄物の山を見たことが始まりです。無造作に積み上げられた廃棄物の山を登ると周辺の空気はより一変しました。鉄についた油のにおい、冷たい温度、硬質な金属は互いの重みで紙のように折れ曲がり、歪み、千切れていました。五感で感じた”世界の異様さ”そこはまさに墓場でした。しかし、その墓場を作り出したのは私たち人間です。恣意的な人間の欲の犠牲となった彼らの意思を私は”言葉”にしたいと思いました。

 利便性を求める私たちは資源の有限性を日常で意識する機会を失いつつあります。この物語を書き“言葉”とすることで、私と資源との関りを再認識させ、生き方を問い直す大切な時間にしていこうと思います。


どうぞよろしくお願いいたします。


 太古の昔から人間の手により絶え間なく繰り返される破壊と、循環の輪を逸脱する創造、人口爆発と大量消費、そして、戦争−。地球がそれほど長く耐えられるはずはなかった。地球温暖化により氷河は崩れ、大陸の30%が水没。新たな領土問題は世界大戦にまで発展し、解き放たれた細菌兵器や放射能物質は生命が存在できる場所を限りなく狭め、奇跡の星と謳われた地球の面影はどこにもない。人間はこの母なる大地を極限まで地球を痛めつけ、とうとう死に追いやった…。


地球は我々一人ひとりの「正義」や「幸福」の犠牲となったのだ。


そしていま、砂漠と廃墟ばかりになった地球は、「怪物」が支配する世界となった。戦争で大量に放出されたウイルスや化学物質、そして過酷な環境は生き残った生物を変異させ、変わり果てた姿であらゆる場所を徘徊している。生き残った人間たち残されたわずかなテクノロジーと自給自足の中で必死に生きつなぐしかなかった。




 くそっ、またかよ−−。吹き荒れる砂嵐を割れたガラス越しに見ながらエンジは心の中で呟いた。窓枠にかけた左腕には炎のようなアザがあり、エンジは密かにそれを気に入っていた。


「さぼってんのかぁ!?」

顎に髭を蓄えた筋骨隆々の男が突然後ろから現れた。


『うわぁ!うるせぇな、考え事してたんだよ、親父は黙ってろ。』

少年は大声に跳びのきながら息を切らせて言い返す。


「何もねぇ頭でかんげぇても、何も出てこんだろうが。」


『ああああぁ?!シバキ倒すぞ。』

ゲラゲラ笑う父親に殺意を込めるエンジ。


「おいっ、ルスト、エンジ、入り口見つけたぞ。」

声のする方に目を向けると瓦礫に手がかかるのが見えた。両手の甲には入れ墨が彫られている。そこから心配そうに頭を出した白髪の少年は、2人の様子をうかがっている。


「賢けぇハクには、負けっぱなしだな。」

再びルストはゲラゲラ笑う。


『…っ!!…うぬっ!!』

ただ(うな)(にら)みつけるエンジの目は、力み過ぎて白目になっていた。


「もうやめろ、ガキか?てめぇら親子は。」


「『あああああぁ!ガキィ!?』」

声を揃えた二人はハクを(にら)みつけた。


「集中しろ、仕事だろ。」

呆れ顔でハクは言った。


 3人は左胸についている小型のLEDのライトを点けて、暗がりの入り口を照らした。ハクが見つけた入り口は、体の大きいルストがギリギリで入れる隙間だった。そこを数メートルくぐり抜けると、広い通路のような空間に出た。3人は順に降りる。


「はぁ。にしても本当に依頼通りの場所だな。こんな場所そう見つけられんぞ。」

先に降りたルストは体についたホコリを払いながら言った。


「取られた物にGPSぐらい付けてないとこんな所見つけられない。」


『ここで種明かしするが、デカい布被った知らねぇ爺さんに盗賊から取り返してほしい物があるって頼まれたんだ、俺たち「何でも屋」も有名になったもんだ。』

と誇らしげに話すエンジ。


「いい依頼が来たって言うからついてきたら。依頼者は、“デカい”、“布被った”、“知らねぇ”、“爺さん”、だと?そいつの話を鵜呑みにしたのか?」


『こ、困ってる人を助けるのも仕事だと思ったんだが…。』


ルストは頭を抱えた。続けてハクも、

「良いカモか、このご時世、顔も見せずに依頼なんてどう考えても怪しいだろ。…ん?」

ハクは壁面にある異変に気が付いた。


−そこには巨大な爪のようなもので引っかいた痕があった。

「やはり。」


「こりゃぁ、確かにどう見たって盗賊じゃねぇな。」

ルストは、あご髭をジョリジョリ触る。



 3人は足音を立てぬようにゆっくりと進んだ。時々剥き出しになった鉄筋が邪魔をする。地下へさらに降りていくと血と肉の腐った臭いが漂ってきた。


『…近いな。』


 通路の先が橙色に照らされている。火を焚いているのだろう。耳を澄ませると、くちゃくちゃと何かを租借するような音が聞こえてきた。

 先頭のハクが通路の角から片目だけ出して音の鳴る方を確認する。そこは岩や鉄骨が柱のように連立する広い空間になっており、大分奥でも火の明かりが確認できた。数メートル先をよく見ると人間の骨が無造作に積み上げられ、その辺りは血の海だ。中心部に動く影がある。

ハクはしばらく見た後、壁によりかかって座り込み、後方の2人へ息を吐くように言った。

「はぁ、“ハウンド”だ。」


第三次世界大戦後に突如として現れた怪物たち。その主食は人間である。

“ハウンド”とは、大戦前の狼が変異したといわれている中型の肉食獣で、体毛は無く、身体の至る所にまるで金属のような隆起物があり、筋肉の発達した前足と巨大な爪が特徴的だ。しかし、幸いなことに鼻は利かない。

「3体いるぞ。」


『マジかよ。』


「これ以上被害が広がらねぇようにここで仕留めるぞ。丁度“コア”も欲しいからなぁ。」


『おうよ。』「ああ。」


3人は一斉に広間に出る。ハウンドは完全に3人を捉えた。


『1体は俺がひきつける!さぁさぁ!俺についてきなっ!』

人間とは思えない速度で走り出すエンジ。一番端にいるハウンドに向かって距離を取りつつ遠回りで走っていくが、


「あーーらら、3体とも行っちまったなぁ。」


『うわっマジかよっ!?』


「あほかっ、行くぞ!ルスト!」

ハクは走りながら転がっていた鉄パイプを手に取り、グローブをはめたルストと共にエンジを追いかけた。


『ここ奥にどんだけ続いてるんだよっ!』

全長200メートル程続く広間の中を、様々な障害物をかわしながら走る。しかし、ハウンドも追いついてきた。


『そろそろ来るかぁ!?』

一番近いハウンドは、一瞬地面に爪を突き立て、勢いよくエンジに飛び込んできた。そのタイミングに合わせてエンジは、体を反転し急停止する。走った勢いをうまく上空に逃がし、体を地面と平行に横回転しながら空中へ飛んだ。


エンジの下でハウンドの爪は見事に空を切る。

『見えてる、ぞっ!』

ハウンドの胴体に思い切り蹴りをいれるとそのまま部屋の壁まで激突した。


着地したエンジに間髪入れず残りの2体が左右から飛び掛かる。しかし、エンジは焦らず態勢を低く構えた。

『ハウンドの弱点は…。』

巨大な爪が同時にエンジの元へ振りぬかれるが、低く構えた体勢から上下に少しずれた爪の間に飛び込み、エンジは攻撃を回避する。2体の勢いは収まらず思いっきりぶつかり合った。

『猪突猛進、大振りなところだぜ!』


「エンジ!」

ハクが叫ぶ。

「これ!使えっっ!!」

遠方からエンジに向けて、鉄のパイプを投擲した。また、エンジの後ろでは態勢を整えた1体のハウンドが襲いかかろうとしていた。


『ナーイス、タイミング。』

エンジは飛んできた鉄パイプをあえて受け取らず、後方のハウンドにぶつけた。顔面にぶつかったパイプはカァンと金属音を鳴らし、回転しながらエンジの頭上に飛ぶ。


「狙いもバッチリだろ?」


エンジはハクに向かって右手の親指をグッと立て、左手でパイプをキャッチすると、

これ見よがしにパイプを振り回し、ハウンドたちを牽制させ、言い放った。


『ははっ!ギア上げてくぜ!!』


お読みいただき誠にありがとうございます。


これからも誠心誠意執筆させていただきます。

また、お手に取っていただけたら幸いです。


よろしくお願いいたします。


this1s1t

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ