8.
スライムと会話していくうちに、リュドミラは徐々に警戒心が薄れていった。魔物ではあるが、悩み事を口にされると同情心まで湧いてくる。
彼女は、壁にくっつけていた背中を剥がして枕に乗せていた尻を滑り下ろし、身を乗り出した。
「働きたければ、魔王に仕えりゃいいじゃない?」
「あのな、お前。簡単に言うけど、その結果どうなるか知ってるか?」
「知るわけないじゃない。で、どうなるの?」
「雑魚扱いされ、めっちゃこき使われる」
「えっ? スライムって雑魚じゃないの?」
「ちげーよ。スライムはな、本来、最強最悪の魔物なんだぜ」
「うん、確かに最悪よね」
「だろ?」
「序盤で負けたら、『最悪だあああああっ!』って落ち込むこと半端ないし」
すると、スライムがボヨヨンと揺れた。
「お前、捕食すんぞ」
そう言うスライムは、口がどこにあるのかわからない。目も鼻もわからない。のっぺらぼうで怖いが、揺れる体はなんとなく愛嬌がある。リュドミラは、唇をほころばせた。
「あなた、お腹減ってるの?」
彼女は、丸テーブルの上にあるふかし芋に目をやった。ディミトリは、まだ椅子の下で震えながら視線を泳がせて逃げ場を探している。
「減っている。背中とお腹がくっつくぜ」
「どこが背中でお腹なのよ?」
「ん……そう言われると、俺でも説明出来ん」
「芋ならあるわよ」
「おお! ありがてえ! ……でもよ」
スライムの体が少し凹んだ。