35.
リュドミラは、ちょっとふくれっ面を見せた。
「もし、わたくしめの涙が落ちなかったといたしましたら、どうなさいましたか?」
「なんか、その言い方、らしくないから調子狂うぜ。リュドミラだって、言いにくそうだぞ」
「でも、ここでは……」
「わかった、わかった。好きにしろ。涙がなかったら、当然言うさ」
「なんとおっしゃったのでしょうか?」
「言わなくてもわかるだろう! 言わせるのか!?」
彼の言わんとすることを悟ったリュドミラは、顔から火が出る思いがしてうつむいてしまった。一方でドミトリーも頬を染めてよそ見をする。
それから、ドミトリーは国王に近づき、改めて一礼した。
「父上。放蕩王子の汚名を返上するため、俺――いや、私は心を入れ替えてこの国のために粉骨砕身します」
国王は、嬉しそうに頷いた。
「そこで、お願いがあります」
「何なりと申せ」
「この国に言論の自由を許可していただきたい。少なくとも今の、体制批判で即投獄になるのを撤廃していただきたい」
国王は、しばし考えた後、口を開いた。
「どんな批判でも許可するとは言いがたいが、即投獄は撤廃しよう」
「ありがとうございます。そうだ、もう一つあります」
ドミトリーがリュドミラの方を振り向いた。
「リュドミラを宮廷付きの芸人に迎え入れてください。この者なら、きっと我々を楽しませてくれます」
すると、国王はニヤリと笑った。
「スライムは誰がやるのだ?」
「あっ、やって良ければ、私がやります。もう一つの魔法の解き方がありますから」
顔を真っ赤にして慌てるリュドミラの方を見た国王は、もう一度ドミトリーに視線を移して聞こえないようにつぶやいた。
「あいつめ、惚れたな」




