34.
厳しい表情で高官をやり込めたドミトリーだったが、リュドミラへは申し訳なさそうな顔を向けた。
「リュドミラには、謝りたいことが3つある」
彼の言葉に、リュドミラは大慌て正座までして深々と頭を下げた。
「わたくしめこそ、ドミトリー王子とは気づかず、数々の無礼の段、お許しくださいませ!」
「何、かしこまって。いつものリュドミラでいいぜ」
ドミトリーは、口元を一瞬ほころばせた後で真顔になり、謝罪を始めた。
まず一つ目は、スライム自身がドミトリーであることを隠していたこと。
二つ目は、小話の台詞を体制批判等の言葉に置き換えて、わざと投獄されたこと。
三つ目は、変身魔法を解くために、一か八かでリュドミラに涙を流させたこと。
それらの理由はこうである。
自他共に認める放蕩王子が、魔女アガーテから教わった魔法に失敗して自分をスライムにしてしまった。世継ぎとあろう者がこの失態では、いくら何でも恥ずかしくて王位に就けない。
後々に、魔女に騙されてスライムになったことに気づくのだが、それまではあまりに恥ずかしくてリュドミラにすら言えなかった。
リュドミラに出会ってから、彼は、彼女が就寝した後で毎日こっそりと王宮の様子を見に行っていた。そんなある日の夜に、イワンが人目に付かないところで高利貸しの連中や魔女のアガーテと会っているところを目撃し、さらに牢獄へも出入りしているのを見て、大いに疑問を抱く。
そこで、牢獄で何をやっているのか潜入して調べるために、わざと投獄されるように台詞を置き換えた。
牢獄へ入ってみると、人間用ではなく魔物用の特殊な檻に入れられ、鉄格子の隙間からは結界で抜け出せないことがわかった。
仕方なく、耳をそばだててイワンと囚人との会話を聞いていると、何らかの取引をしているらしいことがわかった。
そこで、それを探るため、取引に乗っかる振りをしてイワンを呼び止めると、イワンがスライムはドミトリーであることを知っていたので驚愕した。調子に乗って裏事情を暴露するイワンの口から、スライムに変身させたのは魔女アガーテであり、彼女がイワンの共犯者であることもわかった。
そこで、こっそり看守長を呼び、自分がドミトリーであることを告白して、アガーテを捕縛してこの魔法を解かせようとした。
ところが、薬剤師に会った後に捕らえられたアガーテは「お前のことが好きな女の涙、もしくは接吻がないと魔法が解けない」と白状した。
そこで、リュドミラには悪いけれど、御前漫談を設定して、体制批判をすることで魔法を解くための一か八かのチャンスを待った。




