30.
「――とまあ、こんな感じで今に至ったわけだが、牢獄に入っていた十日間でいろんなことがわかってきたんだ」
ドミトリーは、全員の視線を感じながら、軽く咳払いをする。
「まず、変身魔法でスライムになったこと。これは俺の魔法が未熟だったからドジを踏んで間違ってスライムになったと思っていたんだが、そうではなかったんだ」
彼は、ここで言葉を切り、周囲を見渡した。
一人だけ下を向いている者がいる。それは、長老だ。
「なあ、イワンの爺さんよ。なぜ俺がスライムになったと思う?」
イワンと呼ばれた長老は、目だけを上げて、すぐに下を向いた。
「答えの手がかりを言おうか? なんで町中でオルフェ地方から来たばかりの黒魔術の魔女が俺を一目見て正体を見破ったのか? 道行く人が誰一人この俺――ドミトリー王子の顔をわからないで通り過ぎるのにだよ」
ドミトリーは、イワンに近づいて顔を覗き込む。
「あちゃー、しらばっくれるんだ。魔女が教えた変身魔法は何だったかくらいは、ここまで言えば想像つくよな? ああん?」
だが、イワンは頑として動かない。
「じゃあ、口を割らせるぞ」
その言葉にイワンはギョッとして顔を上げた。
「さっさと白状しろよ。この王子に手間かけさせるのか? ……仕方ない。おーい! 衛兵! 魔女をここに連れて来い!」
ドミトリーが大声を上げると、重い扉が開いて、後ろ手に縛られた魔女を引っ張る衛兵が現れた。




