3.
夕陽が山脈のシルエットの向こうに沈もうとして黄雲の起伏を照らし、空の青と光が混ざるところを紫色に色づける。
そんな夕刻を迎えた町は、あちこちで早めにランプの火が灯される。中には篝火を焚くところもある。それらの明かりが揺らめいて、町はにわかに幻想的な趣となった。
灯火の光を浴びながら、リュドミラはすれ違う人々に愛嬌を振りまきながら宿屋へと向かった。
宿屋の女将と従業員に帰宅を告げ、重い足取りで階段を上り、三階にある自分の部屋のドアを腕で押した彼女は、窓が開け放たれて差し込んでいる夕陽の光に出迎えられた。
疲れた表情の彼女は、ドアに鍵をかけると、帰途に立ち寄った屋台で購入したふかし芋3本を丸テーブルの上に転がし、マッチを擦ってランプに火を灯す。
マッチの燃えがらを灰皿に投げ込んでから、さっきからふかし芋に手を伸ばすディミトリに1本を渡し、綱をテーブルのそばにある椅子に結わいた。
それから、階段を上りながら何度もついた小さなため息をここでもついて、ベッドの上へ背中から倒れ込んだ。
ディミトリは、椅子の上によじ登って膝を立てて座り、ふかし芋を頬張りながらご主人の様子を窺ったり、咀嚼しながら窓の外を見たり天井を見上げたり、自分の影が映る壁に目をやっていた。
大の字になった彼女はすぐに上半身を起こし、倒れた弾みでポケットからシーツの上にこぼれた小銭を大事そうに拾い、右手のひらに乗せて目を落とす。
「あーあ……。客がどんどん減っていく。この先、どうすりゃいいんだろうねぇ……」
銀貨1枚と銅貨10数枚を手のひらの上で弾ませながら、ふと窓辺の方へ目をやる。
夕陽はさらに山の裏へ沈み込み、一番星が煌めいていた。
リュドミラは、その大自然が織りなす絵画的な光景にすっかり心を奪われ、窓の下から聞こえてくる通行人の声もほとんど耳に入らず、将来を憂う気持ちも忘れかけていたとき、窓辺にヒョイッと乗っかってきた何かに視線を奪われた。




