27.
スライムは、リュドミラだけに聞こえるようにつぶやいた。
「言いたいことがあれば言え、なーんて言われると、調子狂うぜ、まったく」
笑えないリュドミラは小声で「続きは、どこから?」と尋ねるも、スライムは答えない。
短い沈黙が長老の声で断ち切られた。
「こちらに聞こえぬように、何を話しておる?」
すると、スライムは大声で答えた。
「あん!? あんたが話の腰を折ったから、やりにくいったらありゃしない、ってな!」
「なんだと!?」
「じゃあ、もう一度頭からやるか? すっ飛ばして貴族の辺りからでもいいぜ」
「言葉遣いがなっておらぬ! 国王陛下の御前であるぞ!」
「言葉遣いがなってねーのは、昔からだぜ。何せ、教養がねーからよ。……この国の王子みたいにな」
「なっ! 王族を侮辱するとは断じて許さぬ! ええい! 出会え! スライムを斬れ!」
怒髪冠を衝く長老は、大声でわめいた。同時に、国王の眉がピクリと動いた。
長老の命令で一斉に鞘から剣を抜いた兵士たち十数人が、スライムの方へ駆け寄った。
リュドミラは、両手を広げてスライムをかばうように立ち塞がる。
「お願いです! どうか、斬らないでください!」
「そこをどけ!」
兵士に小突かれたリュドミラは、彼に背を向けながらしゃがみ込んでスライムを抱きかかえた。
「どうか、お願いです! スライムにお慈悲を! 斬るなら――斬るなら、私を斬ってください!」
「どかぬか!!」
一人の兵士がリュドミラの肩に手をかけた。
リュドミラは涙ながらに兵士に訴える。
「いいえ! どきません! このスライムは、私の大切な家族です! 彼には私しかいないのです!!」
もう一人の兵士が舌打ちをして、剣先をリュドミラの鼻先へ向けた。
「ええい!! お前の首を刎ねるぞ!!」
「ええ、覚悟は出来ております! その代わり、どうか……どうか……スライムだけは、お助けを!」
彼女の大粒の涙が頬を、顎を伝って、スライムの上にポタポタと落ちた。
と、その時――。




