16.
「なあんだ、すぐ出せる物と言うから」
「わかった。時短はなしで。じゃあ、手間暇かけて作ってくれて、なんかこう、うまそうなものはないか。うまければ、何でもいい」
「それはいいことを聞いたわ」
「うっ、なんかイヤな気配がそこはかとなく漂っているが……。おい、こら! ゴミ箱を持ち上げるな!」
「中身がない方のゴミ箱だからいいでしょう?」
「ま、俺たちスライムは金属でも捕食して溶かすことは出来るが――って、そんなもん、客に出すなぁ!」
「なら、うまければ何でもいいって言わないでくださいな。限定してくださいまし」
「その金属はうまいのか?」
「以前常連のスライムのお客さんは『これはレア金属だ』って喜んで食べて行かれましたよ」
「それ、食べてから逝かれたんじゃないか?」
「そういえば、最近ご来店されていないような……」
「ほら、それ、それ! んじゃあ、野菜系でうまいやつ。……おい、ちょっと待て」
「はい?」
「その手に持っている洗い立ての皿。まさか、『皿だけでサラダなんちって』、って言わないよな?」
「なんで人のオチを言うんですか?」
「やっぱり……。あっ、そうやってキャベツ丸ごと乗っけて運んでバランス取るな! あっぶねー」
「皿だけは未だに落としたことありませんよ」
「皿だけは? じゃ、キャベツは落とすんかい? 3秒ルールなんて言うなよ」
「いえ、1時間ぐらいは調理場の床に転がっていても洗えば――」
「おい、こら! ……野菜はやめた。卵料理はないか? 何でもいい――じゃなくって、鶏の」
「ありますよ」
「ドラゴンのじゃないぞ、鶏のだぞ」
「わかってますって、スーさんじゃあるまいし。目玉焼きにしていいですか?」
「なんか、サラッと馬鹿にされた気もするが、まあいいか。それにしてくれ。……やれやれ、やっとまともな物にありつけるぜ」
「わかりました。ジュージュー」
「うーん、いい匂い」
「スーさん、卵の殻、要ります?」
「なんで目玉焼きに卵の殻を付ける?」
「いや、ついさっき、他のスライムのお客さんにゴミ箱全部食べられちゃいまして、殻を捨てる所がなくて」
「俺はゴミ箱か!」




