10.
リュドミラは、笑みを浮かべながら首を横に振った。
「却下。スライムを見たお客さんが怖がって逃げるから」
「こんなに人間みたいなスライムなのにか?」
「どこが人間よ」
すると、スライムが縦方向に目一杯背伸びをした。
「ほら、俺だって立てるぞ」
「そこから二本足で歩いてよ」
「兵隊さーん! ここにスライムをいじめる人がいまーす!」
「むしろ、捕まえて欲しいわ」
「なあ。こんな感じで漫談をやらないか。絶対に受けるって。な? な?」
「うーん、その格好がねぇ……」
「服を着せて帽子を被れば――」
「のっぺらぼうでしょうが。絵の具で顔を描くとか?」
「それだけはやめてくれ」
リュドミラは、描かれた顔を想像して吹きだした。
客足が遠のいているリュドミラとしても、スライムの提案は、渡りに船を得るがごとく嬉しいものだった。でも、このスライムの姿を生で客には見せられない。
服でも着せてカツラでもかぶせてとか、包帯をグルグルに巻いてなどといろいろ考えたが、妙案はない。
しかし、それらはスライムを隠すことに主眼を置いている発想だと気づいた。
逆の発想で、このスライムは怖くないというのを客の前で見せればいいだろうと思いついた。
つまり、このしゃべる珍しいスライムは人に危害を加えず、むしろ友好的で愛嬌まで振りまくところを見せればいいのだ。
腑に落ちたリュドミラがポンと手を叩くと、伸びをしたスライムが元の格好に縮んだ。
「なんだ? なんだ? 妙案でも浮かんだのか?」
彼女は「そんなとこ」と嬉しそうにつぶやいた。




