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1.

[登場人物]

リュドミラ……アラサーの女大道芸人

ディミトリ……リュドミラの飼っている芸達者な猿

スライム………しゃべる魔物。名前はないが、漫談の中ではスーさん

 アルウェウス地方は、北の山岳地帯から流れる5つの川が大地を潤し、森林と草原が広大に広がる広さ300平方キロメートルの平坦な土地。そこに大小7つの王国があり、互いに争いごともなく、人々は平和に暮らしていた。


 唯一の脅威と言えるものは、魔物の襲来であった。


 山岳地帯を北に越えたオルフェ地方に5つのダンジョンがあって、そこから時たま魔物が抜け出して一部は山を越えてアルウェウス地方まで侵入してくることがあった。


 しかし、オルフェ地方出身の勇敢な傭兵たちが魔法を使って退治してくれるので、オルフェ地方の人々もアルウェウス地方の人々も、生活を脅かされることはほとんどなかった。



 この傭兵の娘でオルフェ地方出身のリュドミラは、アラサーの女大道芸人。現在、アルウェウス地方の7つの王国を猿のディミトリと一緒に転々とし、日銭を得て暮らしていた。


 彼女は、早くに両親を疫病で亡くし、魔法具販売の店を経営する叔父叔母に引き取られて、学校も行かずに店の手伝いをしながら魔法を習っていた。


 その叔父叔母も()(やり)(やまい)で次々と亡くした後、一人で店の経営を引き継いだが、1年前にイケメンの傭兵との縁談話が詐欺とは気づかず、その傭兵が負っていた負債を全額支払わされ、挙げ句の果てに店を乗っ取られた。


 詐欺師に尻を蹴られて店を追い出された彼女は、店でペットとして飼っていた猿のディミトリを抱いて、隠し持っていた幾ばくかの金貨をポケットの中で握りしめながら路頭に迷う。



 最初は自分の浅はかさを嘆いて泣いてばかりのリュドミラだったが、空腹は人に知恵を授けるものらしく、自分と猿の特技を活かすことを思いついた。


 広場などでディミトリの人間っぽい演技で道行く人々の足を止め、自分の漫談で笑わせて魔法の小技で楽しませ、満足した彼らからの投げ銭を得て生活する今のスタイルは、割と早い時期に確立された。


 ディミトリには男性のいなせな民族衣装を着せ、自分は濃いピンク色のゆったりしたドレスを纏って立つ。これは、遠くからでも目立ち、痩身が貧相に思われないようにするためだ。寒いときは、魔女が着用するような黒のローブを羽織ることもある。これらは、詐欺師に尻を蹴られて土を舐めたときでもポケットの中で握って離さなかった金貨のおかげだ。


 彼女は亜麻色のロングヘアを綺麗に束ね、頭に大きめの花飾りを付け、面長な顔に派手な化粧をする。これは、本人の好みも多少はあるが、他の大道芸人たちに埋没しないためという切実な理由から来ている。

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