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異世界の英雄よ、現実世界でもう一度   作者: ヘンリー
第三部:真夏の英雄譚
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神なるもの⑤『世界ふしぎ発見!』

風音が本を床に広げて読み始めてから早一時間。

 その間少女はずっと、オカルトの持つ魔力に引き付けられたままだった。


 時折美鈴に質問をし、そして談笑をしながら。


 子供が、未知の世界を知る喜び。


 それを英人は、微笑ましく思いながら見つめていた。


「す、すごい……!

 世界には色んな不思議があるんだ……!」


 一気に『超保存版 日本の都市伝説300連発! 定番からドマイナーまで全網羅!』を読み終え、風音は感嘆の声を漏らす。

 子供に限らず自らの知らない世界に足を踏み入れた時、人は誰しも同じような表情をするだろう。


「気に入ってもらったみたいで、なによりです」


 風音の様子を見て、美鈴も笑顔を浮かべる。


「食い入るように読んでたもんな。

 面白かったか?」


「うん! 口裂け女にヒバゴンにクネクネ……全部面白い!」


「そうですよね、風音ちゃんも気になるよね!

 ほら、他にも本はたくさんありますから是非読んでみて下さい!」


 自分の身内、しかも子供とはいえとはいえ同志を見つけた喜びからか美鈴の鼻息がいつになく荒い。


「ありがとう、美鈴お姉ちゃん! でもこんな沢山は一気には読めないな……。

 二人共、すぐに帰っちゃうんでしょ?」


「ああそういうことでしたら、本はこの家に置いておきますよ」


「本当!?」


 風音の体がピクンと跳ねる。


「はい。元々部室に置いてあったものですし……。

 それに、ここは一応私の家でもあるみたいですから」


「やったー!」


 美鈴の言葉に、風音はバンザイをして喜ぶ。


「よかったな、風音ちゃん」


「うん! ……あっそうだ!」


 風音は何かを思い出したかのように、二人に向き直る。


「ん、どうかしたか?」


「本をくれたお礼に、二人にいいものを見せてあげる!」


 そう言って風音は元気よく立ち上がった。



 ……………………

 ………………

 …………

 ……



「よいしょ……ほら、ここ!」


 風音に案内された先は、二階の奥にある部屋。

 中は衣類やら木箱やらが積み重なっており、部屋というよりは物置といった趣。


 掃除もあまり行き届いていないのか、隅には蜘蛛の巣も見える。


「……あまり整理整頓はされてないみたいだな」


 辺りを舞う埃を手で払いのけながら、英人は風音の後ろについていく。


「しかし、見せたいものとはなんでしょうか……?」


「ちょっと待っててね……よし、あった!」


 風音はその小さい体を活かして奥へ奥へと入っていき、縦長の箱を見つける。


「んしょ……」


 そしてその箱を両手に抱え、英人たちの下へと戻って来た。

 それは金具によって補強された、見るからに重厚な造りの木箱。


「これは一体……?」


「ふふ、これはね……」


 ふふん、と得意げに笑いながら風音はその箱をゆっくりと開く。


 そして露わになったその中身は――


「……剣、ですか?」


「随分と年季が入っているな」


 箱の中にあったのは、一振りの剣だった。

 それもかなりの年代物らしく、剣の形こそ保ってはいるもののところどころの劣化が激しい。


「ただのボロっちい剣じゃないんだよ。

 これはね、あの『卑奴羅ヒドラ』を倒した『断魔の剣』なんだ!

 どうだ、ビックリしたでしょ!」


 風音はさらにふふん、と得意げに鼻息を荒げる。


「『断魔の剣』というと、藤太が『卑奴羅ヒドラ』の首をぶった斬ったっていう……」


「これがその……」


「この家をこっそり探検してたら偶然見つけたんだ!

 こんな古い剣なんだし、絶対本物でしょ!」


 そう言ってはしゃぎ始める風音。

 英人はその姿を横目に『断魔の剣』をじっと見ていると、そっと美鈴が耳打ちしてきた。


「……風音ちゃんの言うように、これは本当に本物なんでしょうか?」


「というと?」


「昔話にも出てくる伝説の剣ですし、本来なら清川家ひいては伊勢崎村全体の宝物だと思うんです。

 なのにこんな物置部屋の片隅に置いてあるなんて……」


「確かにな……」


 英人は顎を撫でる。


 確かに、美鈴の言っていることはもっともだ。

 昔話の中では『断魔の剣』のその後について触れてなかったが、『卑奴羅ヒドラ』を倒した後も残っていたとすれば厳重に保管されていたはず。


 少なくとも、風音のような子供が忍び込めるような状態にはしないはずだ。


(だが、この剣自体に気になる点があるのもまた確かだ……)


 英人はチラリと箱の中の剣を見る。


 日本刀ならともかく、目の前にあるのはれっきとした西洋剣。

 しかも見た目からして、ここに保管されてからかなりの年数が経っている。


 何故こんな地方の村に西洋剣が置いてあるのか。

 それも最低でも100年以上前から。


(少し、確かめてみるか……)


 英人は二人に気付かれないよう注意しながら、左手に魔力を込める。

『鑑定』魔法を使って製造された年月や剣の種類を特定しようという算段だ。


 そして魔力を纏った左手が剣に触れようとした時。


「……何をしている!」


 突然、部屋の入り口から声が響いた。

 三人は一斉に声がした方へと振り返る。


「お、お父さん……」


 思わず声を震わせる風音。


 そこにいたのは、寝間着姿の団平だった。


「全くお前は……っ!」


 娘の姿を確認した団平は、ずかずかと乱暴な足取りで部屋の奥へと入っていく。

 途中に立っている英人や美鈴、床に置かれた『断魔の剣』などを全く気に掛ける様子はない。


 ただ彼はわき目もふらず真っすぐに、風音の下へと向かって行った。


「部屋からは絶対に出るなといつも言っているだろう!」


 そして風音の手を掴み、強引に引き上げる。


「ご、ごめんなさいっ!」


 その力強さに、風音は思わず体をビクつかせた。


「団平さん、なにもそこまで怒らなくても……。

 真夜中に勝手に部屋に入った俺たちも悪いわけですから、どうか許してあげて下さい」


「部外者は黙ってくれ、これは俺たち家族の問題だ」


 暗がりから、団平は英人を睨みつける。

 それは自分以外の全てを拒絶するような視線だった。


「……でしたら、私が口を挟む分にはいいですよね?」


 緊張した空気の中、今度は美鈴が口を開く。


「なんだと……」


「つい先日までは知りませんでしたが、私だって立派な清川家の一員。

 それに風音ちゃんは私の大事な姪っ子なんです。

 あまりこの家の事情は知らないですけど、どうか乱暴にしないであげてください!」


 そして美鈴は懇願するように深く頭を下げた。


「俺からも、お願いします」


 英人も同様に深く頭を下げる。


「くっ……!」


 さすがに二人に頭を下げられてバツが悪くなったのか、団平は風音を掴む手を離した。


「ありがとうございます!」


「……二人共、何かいらんことを吹き込んでないだろうな」


 美鈴がお礼を言うと、怒気を含んだ声が団平から帰ってくる。


 そして団平が傍にある木箱に目を移すと、その上には一冊の本が置いてあった。

 そのタイトルは『超保存版 日本の都市伝説300連発! 定番からドマイナーまで全網羅!』。


 すっかりオカルトを気に入った風音がここまで持ってきて、一旦上に置いておいたものである。


「……なんだこれは?」


 団平はおもむろにそれを手に取る。


「あっ! これはね、美鈴お姉ちゃんがくれた本なんだ!

 口裂け女とかクネクネとか、日本にはたくさん不思議があるんだって!」


「都市伝説……?」


 眉をひそめながら、団平はパラパラと本をめくる。


「フン、あるわけないだろうそんなもの。昔話といい、お前は幼い時から……。

 ほら、これは君に返す。みんな今日はもう寝なさい」


 そしてそう斬り捨てた後、本を美鈴に押し付けるようにして返した。

 足元にあった『断魔の剣』も、邪魔とばかりに足で脇によける。


「お、お父さん……」


「まったくどうやって部屋から抜け出したのか……。

 言っとくが次はないからな。ほら行くぞ」


「はい……」


 団平は風音の背中をポンと叩き、風音はトボトボと部屋を後にしようとする。


「ほら二人も。

 寝不足で明日の『巫女参り』に支障が出たら困る」


 そしてその後に続く団平がすれ違いざまにそう言った時。


「……ある」


 ふと、英人が口を開いた。


「は? 何を言って……」


「この世界には……いや、この世界に限ったことではないか。

 だがいつの世と時代にも、不思議なことは沢山ある」


「ひ、英人お兄ちゃん?」


 風音はおずおずと英人を見上げる。


「しかも自分が思うよりも、遥かに身近な所にだ。

 保証する。不思議は、絶対にある」


 そう語る顔はずっと壁を見ており、全員に背を向けている。

 しばし部屋の中を流れる静寂。


「……ばかばかしい。いくぞ、風音」


「う、うん……」


 しかしそれも長くは続かず、その言葉を皮切りに団平は風音を連れて部屋をそそくさと出ていった。


 残されたのは、英人と美鈴の二人。


「八坂さん……?」


 美鈴は小さく声を掛ける。


「ん? いや大丈夫。

 団平さんの言う通り、俺たちももう寝ようか」


 その言葉に英人はフッと笑って振り返った。


 暗がりに浮かぶその表情に、美鈴は視線だけを逸らす。

 

 何故、その顔を直視できなかったのか。

 その理由は美鈴本人にすら定かではなかった。

 


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