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異世界の英雄よ、現実世界でもう一度   作者: ヘンリー
第三部:真夏の英雄譚
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神なるもの②『田舎に泊まろう!』

 二人が軽トラックに近づくと、一人の男性が運転席から降りてきた。

 そのまま早歩きでこちらの方に寄って来る。


「あの、ええと……団平さん?」


 その様子に、美鈴は恐る恐るといった感じで声を掛けた。


 見た目は4、50代といったところか。

 白髪が僅かに混じる短髪と、シワやシミが目立ち始めた顔が中年男性っぽさを引き立たせている。


 さて、第一声はどんなものか……。

 そう英人が思っていると、


「おお美鈴ちゃん、よく来てくれたね!

 横浜から遠路はるばる、大変だったろう!」


 団平はその厳つめな顔を緩め、ニッコリとした笑顔で美鈴の到着を迎えた。


「……は、はい……」


「それで美鈴ちゃん、この人は?」


 団平は英人の姿を横目で見た。


「え……あっはい! 

 この人は八坂英人さん。私と同じ早応大生で、サークル仲間です」


「……宜しくお願いします」


 英人はペコリと頭を下げる。


「おおそうか。いやてっきり美鈴ちゃん一人で来ると思ってたから、ビックリしたよ」


「すみません、事前に連絡した方がいいのかなとも思ったのですが……」


「いやいや、俺が無理やりついてきただけですから。

 彼女のせいじゃないです。すみません清川さん」


 そう言い、英人は再び深く頭を下げた。

 ちなみにこれは事前に相談しておいた設定で、英人の付き添いについては団平に連絡しないように美鈴に言っておいたのだ。


「ほう……でもこんな田舎まで来るなんて、君もかなりの物好きだね」


「ええ。おっしゃる通り、物好きなんですよ。

 私、大学では民俗学を専攻してましてね。それで研究のために地方にはよく行くんです」


 もちろん真っ赤な嘘である。

 英人は経済学部であるし、そもそも二年生の時点で専攻もなにもない。

 美鈴も「何言ってんだ、コイツ」と訴えるように、ジト目でこちらを睨んでいる。


「そ、そうか……さすが都会の学生さんは、研究熱心だ」


「いやそれほどでも……まあそういうわけなんで、お祭りの間だけでも見学させてもらえればなと。

 ご迷惑はおかけしないようにしますので」


 またしても英人は深々と頭を下げる。

 今ではすっかりモノにした、義堂流の頼み込み方だ。


「いや、急に言われてもなあ……残念だけど泊める場所がね」


 団平は困ったようにわざとらしく頭を掻く。

 彼としては認めたくないだろうが、そうは問屋がおろさない。


「別に無理してお家に上げていただかなくても大丈夫ですよ!

 野宿でも一向に構いませんし。それに食べ物も一応持ってきましたからね!」


 追い打ちとばかりに、英人は大きめの荷物を持ち上げてアピールした。


「いやそういう問題じゃ……」


「そこをなんとかお願いします!

 今書いてるレポートのテーマがこの地域の風俗なので、是非とも調査をさせて欲しいんです!」


 さらに英人は両手を地面につけ、土下座をして頼み込んだ。

 こういうものは結局、押したもの勝ちである。特に日本人は、下手に出るようなやり方にめっぽう弱い。


「ええっ! いやいや、そこまでしなくてもいいから!」


「じゃあ、お祭りを見学させてくれるんですか!?」


 よしきた、英人は顔だけ勢いよく上げる。


「いや、まあ……その……」


 それに対し目を泳がせる団平。もう一押しであろう。


「頼みます! このまま手ぶらでは帰れんのです!

 俺、この研究に人生懸けてるんです!」


 英人はがしっと団平の肩に掴みかかり、男泣きとばかりに目を潤ませた。

 自然豊かな田舎に、叫び声が不自然な程に響き渡る。


「……ああもう分かった。村まで連れていくからもう離してくれ」


 結局、団平は英人の勢いに根負けした。


「ありがとうございます!」


「ハァ……。じゃあ二人共、トラックに乗ってくれ」


「「はい!」」


 こうして二人は団平のトラックで伊勢崎村まで向かうことになったのだった。






 伊勢崎村は、駅からさらに車で一時間以上離れた場所にあるという。

 英人は軽トラックの荷台に揺られながら、移りゆく景色に目を向けていた。

 ちなみに美鈴は助手席だ。


(とりあえず、村には入れそうだな……)


 本来英人は招かれざる客、直接ついて行っても追い返される可能性は高いと想定していた。まあそうなったらそうなったで近場の山にでも潜んでサバイバルするつもりだったのだが、無理矢理にでも言質をとるに越したことはない。


 それに、今のやり取りで得た収穫もあった。

 それは団平にとって英人は招き入れたくない部外者だが、そのまま黙って帰すのも都合が悪い存在だということだ。

 何故ならゴネたとはいえ、無理筋は無理筋。本当に来て欲しくないのならもう少し拒否を続けたはず……つまりその辺りのジレンマに、今回の件の鍵があると見ていいだろう。


「さて、鬼が出るか蛇がでるか……」


 英人の小さな呟きは、粗いエンジン音にかき消されていった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それからおよそ一時間後。


 山と川だけの景色も終わり、周囲には次第にぽつぽつと民家が目立ち始めるようになった。どうやら、もう村の中には入っているようだ。


 英人たちを乗せた軽トラックは舗装のされていない畦道を突き進み、村の奥へ奥へと入っていく。脇を見ると田んぼでは稲が実りに実っており、秋の到来を予感させる。

 こういう景色を見ると「ああ、田舎に来たんだな」と気持ちが穏やかになってゆくのは、田舎の持つ雰囲気ゆえだろうか。

 細部こそ異なっていても、時間がゆっくりと流れる点は異世界の田舎も大差ない。


 そのまましばらく田園風景を横切ると、軽トラックはとある民家の前に停車した。


「よし、着いたぞ」


「ありがとうございます」


 玄関の脇に車を停めると、二人がトラックから降りる。


「よいしょ……っと」


 続いて英人も荷台から飛び降りた。


「ここが……」


「ああ、ここが清川家。

 美鈴ちゃんのお父さんお母さん、そしてお姉さんの家だ」


「なるほど……」


 英人と美鈴はその民家を見渡した。


「これがお母さんたちの、家……」


 それは二階建ての、年季の入った日本家屋だった。

 古いが、その佇まいには向こう百年はまだまだ保ちそうな力強さを感じさせている。

 ここが、清川鈴音が暮らした家。


「ほら、二人共上がって」


 二人が家に見とれていると、ガラス戸の鍵を開けた団平が手招きした。


「は、はい」


「お邪魔します」


 二人は清川家へと上がりこんだ。



 ◇



「それじゃあ俺はちょっと用事で外すから、二人は居間で休んでいてくれ。

 夕飯時までには戻るから」


 二人が清川家に上がってすぐ、団平はそう残して去っていった。

 早歩きなのを見るに、急な用事なのかもしれない。


「何か、あったんでしょうか……」


「さあ……?」


 二人は首を傾げつつ、差し出された麦茶を飲みながらボーっと居間の中を眺めた。


 二十畳近くはありそうな大きな居間であり、隅にはこれまた年季の入ったタンスが置かれている。さらにその上には定番のこけしやよく分からない日本人形まで。まるで自分のおばあちゃん家に来たみたいだ。


「テレビ……ないですね」


「ああ、スマホも電波が繋がらん」


 しかし目ぼしい家電製品がないため、これでは時間の潰しようがない。

 夕飯時には帰ると言っていたが……現在時刻は午後三時。五時に戻るとしても、あと二時間だ。

 ゲームやスマホいじりでもしているならともかく、なにもせずでの二時間は気が遠くなるほど長い。さらに田舎のゆったりした時間感覚を加味すれば、それは最早「暇」という名の地獄だろう。


「そうだ。私、本をいくつか持ってきたんです。

 もしよかったら読みませんか?」


 途方に暮れていると、美鈴は鞄から何冊かの本を取り出してお膳の上に並べた。

 暇つぶしの本を持ってこなかった英人にとって、これはありがたい。


「お、悪い」


「どれでもお好きなのを選んでください!」


 自信満々、と言った表情で胸を張る美鈴。


「どれどれ……」


 並べられた本のタイトルを見てみると……


『実録100日間! 伝説のUMAオゴポゴは実在した! UMAハンター周人の大冒険!』

『超保存版 日本の都市伝説300連発! 定番からドマイナーまで全網羅!』

『月刊アトランティス 超能力大特集号

 やはり超能力者は実在した!? 世界各国の超能力伝説からFBI超能力捜査官まで徹底解剖!』


 とまあ全部がオカルト関連であった。

 別にオカルト関連が嫌いなわけではないが、こうも統一されると少し気圧されてしまう。


「うーん……」


「ど、どうでしょうか……?」


 美鈴はやや不安げな視線を英人に送る。つい先程の自信はどこに行ったのか。


「ん、ああ……じゃあこれにしようかな」


 とはいえ読まないというのもやるせないので、英人は『実録100日間! 伝説のUMAオゴポゴは実在した! UMAハンター周人の大冒険!』を手に取った。


「……! さすがです!」


 何がさすがなのかは分からないが、とにかく二人は本を読んで時間を潰すことにした。



 ………………


 …………


 ……



 二人が本を読み始めてから早一時間。


「ん……?」


「団平さんでしょうか……?」


 玄関の戸を叩く音が居間まで響いてきた。


「だとしたら、自分で鍵を開けて入ってくるはずだが……」


 呟きながら、英人は『探索の魔眼』で玄関の外を透視する。

 すると見えてきたのは、五人ほどの老人の集団だった。おそらく、近所の人たちだろう。


「居留守ってわけにもいかんから、とりあえず俺が出てくる」


「あ、待って下さい八坂さん」


 英人はすくっと立ち上がって玄関へと急ぐ。

 それに遅れて、美鈴はとてとてとその後ろについていった。


「どうも」


「おおこんにちは」


 玄関の戸を開くと、やはり五人ほどの老人たちが戸を囲むように立っていた。

 その姿は麦わら帽子に長靴と、おそらくは農作業を終えてそのままこちらに来たのだろう。


「ええと……すみません、今団平さんは留守にしてまして」


「ああそうかいそうかい。そいつは残念じゃ」


 英人が答えると、老人の一人がしきりに頷いた。


「だからトヨ婆さんの言った通りじゃろがい。

 いま急いで行ってもおらんて」


「だがもしもっちゅうんがあるじゃろ」


「それに……」


 一人の老婆が玄関の奥に視線を向けると、皆一斉に同じ場所を覗き込む。


「秀介ンとこの娘が今こっちに来とるんじゃろ?」


 その先にいたのは、恐る恐る戸の外を覗く美鈴だった。


「ほら、恥ずかしがってないでこっちおいで。

 こっからじゃ、顔が見えんでな」


 老人の一人が手招きする。


「は、はい……」


「おお、どぇれー別嬪さんじゃ。

 さすが京子の娘なだけある」


「ほぉー。目元の辺りが鈴音ちゃんにそっくりじゃのー」


 美鈴が玄関から顔を出すと、老人たちが口々に囃し立て始めた。

 もはや本人そっちのけの盛り上がりようである。


「は、はあ……」


「しかし、『巫女参り』の前日に、来てくれるとは。

 これでしばらくこの村も安泰じゃて」


「うんうん」


「そうじゃそうじゃ」


『巫女参り』、という言葉に英人は引っ掛かった。


「『巫女参り』……とは?」


「おお。明日の祭りのことじゃ」


「この村の神さまである『オオモリヌシ』様に供えモンをする日じゃ」


「十年に一度の祭りでな。村の安泰をお願いするんじゃよ」


「なるほど……」


 その土地の神様に五穀豊穣を祈願する、というのは日本だけでなく世界でもありがちな民間信仰だ。十年に一度というのが少し気になるが、何か理由があるのだろうか。


「ん? そういえばアンタ……」


 英人が顎に手を当てて今の話を整理していると、老人の一人がその顔をじっと覗き込んできた。

 もしや、怪しい人間と思われたか……英人は身構えつつ、口を開く。


「どうかしましたか?」


「……誰じゃ?」


 だがその今更な質問に、英人は少しズッコケた。



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