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異世界の英雄よ、現実世界でもう一度   作者: ヘンリー
第七部:元『英雄』と、変わる世界
311/314

新宿異能大戦79『戦いも終わり……前編』

 十二月二十五日

 午前6時00分


「……これで、最後っ」


 日の出前、しかし夜空が微かに青みがかる頃。

 最後の『魔獣』の頭が爆ぜ、力なくその場に落ちる。


「ふぅ。

 供給自体は比較的すぐに止まったけど、結局朝までコースかぁ」


 昆をくるくると回しながら、人民共和国『国家最高戦力エージェント・ワンこう赤天せきてんは深いため息を漏らした。

 さしもの彼女でさえ額には脂汗が浮かび、吐息には疲労の色がずっしりと濃い。

 赤天はふらりと倒れ込むようにして近くの『魔獣』の死体に座り込んだ。


「あ~疲れた~~早く帰ってお風呂入りたい~~~~!

 紳士の人もそう思うだろう!?」


「……………………………………」


 しかし連合王国と『国家最高戦力エージェント・ワン』、ケネス=シャーウッドは石像のように動かない。

 無表情はいつも通りだが、押せばそのまま倒れ込みそうな程に覇気がなかった。


「な!」


「……………………………………………………そうだな」


 しかしそこは紳士としてのマナーなのか掠れた言葉が返ってくる。


「いつにも増して声が小さーい。

 あ、筋肉の人は大丈夫だよね?」


 次に赤天は視線を移し、アスファルトの剥がれ切った大通りの真中へ。

 そこには大の字になって天を仰ぐ連邦共和国の『国家最高戦力エージェント・ワン』、ギレスブイグ=フォン=シュトゥルムがいた。


「…………ついでみたいに労うな」


「あらら、こっちもこっちでいつもの迫力がない。

 まぁ確かにしんどかったもんねー今回」


 赤天はぐぐ、と伸びをしつつ周囲を見渡した。

 死体に瓦礫、辺りにはそれしかない。しかもその死体は違う世界よりやってきた慮外の獣で――


「でも、充実はしてたかな。

 こんなの初めて」


 もう二度と起きないのではないかとも思えるような濃密な時間に、赤天はクスリと笑った。


「あーでもそれなりの数取り零しちゃったのは悔しいなぁ。やっぱりまだまだ未熟。

 今からでも追うかな……」


「安心なさい、それは私がやりました」


 赤天が振り向くと、そこには白ドレスに身を包んだ女がいた。


「あ、パリジェンヌの人」


「事実ではありますが何ですかその呼び方……とにかく、怪物はほぼ駆逐しましたが救助に誘導に安全確保とまだまだ仕事が残っています。

 へたり込んでいる場合じゃありませんでしてよ」


 そう言って第五共和国の『国家最高戦エージェント・ワン力』、ミシェル=クロード=オートゥイユは首を鳴らす。

 とはいえ、彼女の表情もまた疲労の色が凄まじく濃い。やはり今回はそれほどの戦いだったのだ。


「確かにそうだな」


「……回復したのは結構ですが、いきなり立ち上がらないで下さいまし?」


「?

 回復したなら立ち上がるのは当然だろう?」


 首を傾げながらギレスブイグは答える。


「ついさっきまで倒れてたというのに、相も変わらずふざけたような体力……!

 まぁいいですわ、さっさと次の仕事に入りますわよ」


「そういうわけだ、行くぞ皆の者!」


「えー疲れたー」


「……………………………………………………了解した」


 そして『国家最高戦力エージェント・ワン』たちはぞろぞろと動き始める。


「まったく、何で貴方が仕切るんですの……。

 それに、」


 言いながら、ミシェルは小さく溜息をつく、


「ムッシュー・ヒデト、それにリチャード・L・ワシントンもこんな時に何をしていますの……」


 そのままここにはいない男たちの名を挙げた。



 ◇



 同刻

 新宿御苑



「――――――終わった」


 天幕内のパイプ椅子に腰かけながら、いずみかおるは肩を下ろして言った。


「泉会長、それって」


「ああ、有馬ユウから始まる全てのものがたった今完全に消え去った。

 ……この私を除いてね」


「会長……」


 カトリーヌは胸の前で手を結び、神妙な面持ちを浮かべた。

 まずは事件がひと段落して安堵したのがひとつ。

 でも事件の終了は同時に罪の清算が始まるという事も意味する。


 つまり、本当の別れの時。


「大丈夫だよ」


「会長……」


 その気持ちを悟ったように、薫は顔を上げた。


「八坂君と約束したからね。

 たとえ何十年かかっても必ず罪を償って、またあの部室で会うって」


「泉会長……」


 美鈴みすずは涙を浮かべ、口をきゅっと結ぶ。


「大丈夫だ。

 だってあそこまで盛大にフラれた訳だからね、あれに比べればもう怖いものなんてない。

 石に齧りついてでも罪を償い切って……いつか胸を張って皆に会えるような、私になってみせる」


「会長……っ」


 美鈴はそっと薫に抱き着き、カトリーヌもそれに続く。

 つかぬ間の温もり。同時に薫の眼にも感情が溢れてきた。


「……ごめんよ」


 一度『悪』に染まった女は、たどたどしい手つきで二人の背中に触れる。

 

「ごめんよ……!」


 三人の少女の嗚咽は、しばらく天幕の中に響き渡った。


【お知らせ】

いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます!

今回はちょっと短くてすみません……。


そして度々で本当に申し訳ないんですけれども、次回更新も所用によりお休みさせていただきます。


次回は7/23(土)公開予定です!

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