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異世界の英雄よ、現実世界でもう一度   作者: ヘンリー
第七部:元『英雄』と、変わる世界
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新宿異能大戦㊷『負けた正義の末路』

 午後11時48分、代々木。

 今なお獄炎が燃え盛るその場所は、不思議な程の静寂に包まれていた。


「――あ、が」


 二つに裂かれた炎の身体が、力なく膝をつく。

 そのまま左右に分かれて倒れそうになるが、それは何とか両腕を使い、半身同士をくっ付けようと試みる。

 しかし、


「――ぐ、」


 いくら力を込めようと、炎で包もうと、二つが合わさることはない。

 力を抜いた途端、すぐにどちらかがずり落ちてしまう。


滅刀めっとう終耀灼火しゅうようしゃっか』はたとえ相手が炎であろうと完全に焼き斬る、再生不可の必殺の一太刀。

 二つのカラダが再び一つになることはなかった。


『……だが大したものだ。

 戦闘不能になったといえど、命だけは辛うじて繋いでいる。

 狂気とはいえ、これも人の想いのなせる業か』


 義堂の脳裏に、『炎神ノ滅刀(カグツチ)』を通じて声が響いた。

 フェルノ=レーヴァンティアの声だ。


 義堂は刀を持つ右手に視線を下げる。


『ああ、私のことなら気にしなくていい。

 肉体という器を離れ、「神器」の精霊になったというだけのことだ。

 ちなみに契約については既に完了しているから、これからは宜しく頼むぞ契約者殿?』


「契約?」


『先程の問答だ』


「……成程、分かった。

 こちらこそ宜しく頼む」


 その返事をするのに、義堂はあまり深く考えなかった。

 正直、契約と呼ぶには先程の受け答えはあまりにも杜撰で軽薄過ぎたが、義堂はそれでいいと思っていた。


 自分はもう、迷わないと心に誓った。

 その結果今この手に『神器』が握られた。


 ただ、それだけのことなのだ。

 やるべきことは変わらない。


「覚悟が定まれば、進むべき道も自ずと定まる……か」


 義堂は『滅刀』を持ち上げ、再びその刀身を見た。


 白刃が放つ光沢は、今も燃え上がりそうな程に煌々と揺らめいている。

 まるで、炎をまるごと閉じ込めたかのようだ。


――今、自分の手には神を殺す程の力が握られている。


『我が一族が恐れ、溺れてしまう程の力だ。人間は言わずもがなだ。

 だからこそ誠実たらんとする貴殿を選んだ』


「……そうか。

 ならしっかりとその期待に応えなくてはな」


『大丈夫かな?』


 フェルノは悪戯っぽい口調で言う。


「今年に入ってからというもの、そういう類に散々晒されてきた。

 今更さ」


 それに義堂は肩を竦めて答えた。

 そしてふと、後ろに気配を感じて振り返る。


「――義堂」


「……八坂」

 

 そこには親友がいた。

 義堂は『無双陣羽織むそうじんばおり』を解除する。


「……どうやら倒したらしいな、第二位」


「ああ。

 本当に沢山の人達の力を借りて、何とか」


 義堂は前を向いて視線で前方を示した。

 先には、二つに切り裂かれた残り火が、静かに倒れている。


「フランシスコ=ヴェガ……」


 一つ息を吸い、義堂はその前まで歩いた。

 さすがに熱さはあるが、今やその炎に勢いはない。生身のスーツ姿でも問題なく近づけた。


「…………義堂、さん……」


 炎の中に、微かに人の顔が見えた。

 紛れもないフランシスコ=ヴェガの顔だ。


「俺は、お前のようにはならない。

 ……いや、なろうとしてもなれないだろう」


 義堂は一瞬だけ英人の方を振り返り、続けた。


「何故なら、俺の周囲にいる人達が絶対に止めてくれる。その言葉と背中で。

 それを心から信じられるから、これからも俺は走っていける」


「…………」


「俺は、正義にも悪にも流されたりはしない」


 そう言い、義堂はもう一歩前に出て片膝を立ててしゃがむ。


「…………殺す、のですか……?」


「違う」


 義堂は懐から手錠を取り出し、


――――カチャン。


「午後11時50分、現行犯逮捕」


 炎をものともせず、その両腕に掛けた。


「…………な、」


「忘れてもらっては困るが、俺は警察官だ。

 生きているのなら逮捕する」


「こんな姿になっても、ですか?」


「どんな姿になってもだ。

 たとえ左右半分に分かれていようと、死に逃げは許さない」


 義堂が言うと、ヴェガはクスクスと笑いだす。


「手厳しいですね、この国の警察は……」


「そりゃそうさ。

 これでも一応、世界一優秀で通ってんだからね」


「長津さん」


 振り返ると、『異能課』課長である長津ながつ純子じゅんこが不敵な笑みを浮かべていた。


「信徒たちは部下と一緒に安全圏まで退避させた。

 幸い先程までの戦闘の影響で他の参加者たちは皆付近から逃げ出していたようだから、しばらく襲われる心配もない」


「ありがとうございます、藤堂とうどうさん」


「ああ。

 だから聞いての通り、後はお前だけだ」


「どうやら、そのようですね」


 ヴェガは肩をすくめるようにして微笑む。

 その光景に藤堂は眉をひそめた。


「まさか、信徒共々心中するつもりだったと言うまいな?」


「……いえ。ですが終わる前に最後の仕事をしておこうと思いまして。

 これでも、信徒を束ねる立場の人間ですから」


 ヴェガが口角を上げると、消えかけていた炎が僅かに勢いを取り戻す。

 純子たちは思わず身構えるが、彼は一瞥もしない。


「――聴こえていますか、信徒の皆さん。

 私は、フランシスコ=ヴェガはたった今、負けました。

 『国家最高戦力エージェント・ワン』である義堂ぎどう誠一せいいち氏と日本の警察に、完膚なきまでに敗北致しました」


 その声は、驚くほどに良く響いた。

 おそらく僅かに残った彼自身の『異能』によって底上げをしたのだろう。


「これまでこの非才の身に多大なる期待を寄せて下さったというのに、大変申し訳ない。

 ですがこれでもう終わりです。

 私も、修道会も、その教えも。

 後は残った貴方がたは、どうか大人しくこの国の罪に服して下さい。

 何故なら、我々はこの世界においては紛うことなき悪なのですから!」


 炎の中より浮かび上がってきたのは、笑顔。

 けれど、その瞳からは涙が止めどなく溢れていた。


「ふざけんな!」

「私たち、貴方を信じて付いてきたんですよ!?」

「今更そんなこと言わないでくれよ!」


「くっ、大人しくしろ!」

 

 ヴェガの言葉が信徒まで届いたのだろう、後方からは戸惑いの混じった罵倒が聞こえてきた。


 これまで正義だと信じていた筈のものを、悪だと暴露される。

 それは彼等が怒る理由としては、決して真っ当とは言えない、。しかし当然の怒りだった。


「信じることと墜ちることは紙一重。

 確かに私は殺し、導き、扇動した。そして貴方がたに殺させた。

 嗚呼、我ながらなんと罪深い!

 見ろ、悪はここにいるぞ!」


 ――ボオオオオオッ!


 その時、ヴェガの肉体に新たな炎が燃え上がった。

 しかし様子がおかしい。


「ぐ、ウ……っ!」


 これまで炎を操って来たはずの男が、どう見ても苦しんでいる。

 というより、その炎は明らかにヴェガの肉体を焼き焦がしていた。


「な……っ!

 クソ、早く消すよ!」


「……もう、遅い」


 声を張り上げる純子に、ヴェガは静かに首を振った。


「たった今彼等と私の間で、既に共通の意志が成立しました。

 即ちフランシスコ=ヴェガこそが滅ぼすべき真の悪であると。

 もう炎は、私が死ぬまで消えはしない……!」


「ヴェガ、お前は……」


「ふふ。

 別に、気にすることは、ありませんよ……」


 体が焼ける苦痛に表情を歪ませながらも、その男はまだ笑顔だった。


「ただ、一つの正義が終わったというだけ……。

 狂った正義の結末は、最初からこれしかないと思っていましたから……。

 しかし残った灰の処分は、貴方に……」


 言いながら、ヴェガは信徒たちを遠巻きに見つめた。

 彼等は裏切られたという憎しみの視線に乗せ、死にゆく神父を突き刺している。


「どうです、我が信徒ながら醜いでしょう?

 これからは、貴方が彼等と向き合わなければならない。

 ……出来ますか?」


「……ああ。

 彼等には生きてしっかりと罪を償ってもらう。

 神にも死にもお前にも、誰にも転嫁させたりはしない」


 義堂はその視線を微かに感じつつも振り返らず、毅然と言った。


「……ふふ」


 ヴェガは微笑む。

 そして最後に義堂とその隣にいた英人を一瞥し、


「それは何とも、正しい……」


 そのまま、果てた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 同刻、新宿大ガード下。


「……そろそろ、死んだか?」


 それは、まるで怪獣が過ぎ去ったかのような瓦礫だらけの荒れた光景。

 その中心でこれまた怪獣のような見た目をした大男が呟いた。


 大男の名は『サン・ミラグロ』使徒第三位、『暴虐』のレックス=リガードマン。

 『異世界』由来のリザードマンの肉体を持つその男は、冷めた目で地面を見下ろす。

 その先には、


「ぐ…………く、うっ……!」


 第五共和国の『国家最高戦力エージェント・ワン』、ミシェル=クロード=オートゥイユが口から血を垂らしながらアスファルトに伏していた。


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