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異世界の英雄よ、現実世界でもう一度   作者: ヘンリー
第七部:元『英雄』と、変わる世界
260/314

新宿異能大戦㉘『史上初、史上最少、史上最強』

午後11時03分。

 新宿大ガード下。


「くっ……」


 歯噛みしながら、英人は交差点の入口辺りに降り立つ。

 周囲を見回して見ると、凄惨たる状況だった。

 踏み潰された肉、引きちぎられた肉、ねじ切られた肉――五体満足な死体などどこにもない。

 しかしそれ以上に、


「おおらぁっ!」

「死ねぇっ!」


 そんな状況下においてもなお殺し合いを続ける参加者たちが、英人の目には異様に映った。

 血と殺戮に酔ったことを差し引いたとしても明らかに異常な状態。

 原因はおそらく――


「テメェか、デカブツ」


 英人はフードを被った大男の前に立った。


「…………あ?」


 すると大男はゆっくりと振り向き、次の瞬間。


――グオオオオオッ!


 裏拳が、凄まじい轟音を鳴らした。


「くっ!?」


 英人は咄嗟に両腕を上げてガードするが、勢いまでは殺せない。

 みしみしと骨の軋む音を響かせながら、身体は数メートル後ろにスライドした。


(体格差っ引いても、人間の膂力じゃねぇ……っ!)


「……死なない。

 成程、お前が八坂やさか英人ひでとか」


「ああそうだ……よっ!」


 まだ痺れが残る腕を振り上げ、英人は大男に向かって一直線に突進する。

 しかしその時。


「うらああああああっ!」

「死ねエエエっ!」


「なっ!?」


 四方から、目を血走らせた参加者たちが襲い掛かって来た。


「ポイント寄こせぇっ!」

「異世界っ、異世界へ行くんだ……!」

「死にたくねぇんだよっ!」


「く……っ!」


 我先にと掴みかかって来る彼等の表情は、焦燥のひと言だった。

 ポイントが欲しい、生き残りたい、クリアしたい、ただ全てを忘れて暴れたい――そこにあるのは、マイナスの感情のみ。

 ただそれだけを理由に、彼等は狂気とも言える殺意を抱いている。

 対話での和解は不可能――瞬時にそう悟った英人は『エンチャント・ライトニング』の出力を上げ、咄嗟に参加者たちを気絶させた。


「……さっきといい、ありえねぇ。

 いくら空気がそうだったとしても、人がこんな顔しながら人を襲うはずがない。

 …………『異能』か」


 静かな怒りを乗せ、その眼差しは目の前の巨体を突き刺す。

 同時に左目に宿った『看破の魔眼』はその大男の全貌を明らかにした。


(……『暴力礼賛バイオレンスジャック』。

 周囲の人間が持つ感情を全て暴力に結びつける能力で、さらにはその育てた暴力衝動を吸収することで自身の強化も可能。

 いや、それよりもコイツは――)


 その瞬間、英人の眼前に再び拳が迫った。


 さっきよりももう一段速い。

 だが同じ轍を踏むわけにはいかない。


「く、お……!」


 英人は紙一重の所でそれを交わし、カウンターとしてハイキックを大男の顔面に見舞った。 

 だが、身長差もあって浅い。せいぜいがフードを弾いた程度。

 英人は追い打ちを諦めて距離を取り、再び大男の姿を眺める。

 そして、息を呑んだ。


「…………!」


 フードの下にあった顔は、人間のそれではなかった。

 まず特色的なのは、緑色と乳白色が混じった肌。さらに瞳は赤く、瞳孔は縦に細く絞られている。

 またその頭に毛髪や体毛といった類の物はなく、代わりに鱗が表面を禍々しく覆っている。

 だが何より、英人はその姿に見覚えがあった。


「リザードマン……!」


 それは『異世界』に於ける魔族の一種。

 人間と同じように思考し、二足歩行する爬虫類だった。


「やはり『異世界』を経験した人間には分かるか、すごいな。

 そう俺はこの世界出身のリザードマン、使徒第三位『暴虐』のレックス=リガードマン。

 ……ああくそ、必要もないのに自己紹介なんてしてしまった。

  お前、もう殺す」


「っ、『エンチャント・ライトニング・フルボルト』!」


 英人は雷撃の出力を上げ、その膂力を受け止める。

 当然レックスは雷撃の嵐の中にその身を晒すことになったが、それでもお構いなしと拳を繰り出すことを止めない。


(魔法での強化がまるで意味ねぇ……! なんつー速さと強さ、そして耐久性!

 こいつ、『竜人ドラゴニュート』か……!)


 拳の雨を捌きつつ、英人はその可能性に思い至る。


 リザードマンと聞けば、正直あまり強いイメージを抱くことはないだろう。

 ファンタジー系のRPGによく出現しはするが、その扱いは良くて並程度。基本的にはゴブリンやスライム等と同じカテゴリーに括られるような雑魚敵である。

 しかしそれはこちらの世界の認識であって、『異世界』では違う。

 もちろんその殆どが下~中級に収まる程度のものでしかないが、稀にいるのだ。竜の因子を持つ『竜人ドラゴニュート』と呼ばれるリザードマンが。

 竜をその身に宿すがゆえに強く、賢く、それでいて気高い。中にはその突出した力で歴史や神話に名を刻む者すらいる。

 今英人が相対しているのは、そんな相手であった。


(ならなおのこと、速攻で決める……!)


左腕レフトアーム再現情報入力インストール――』


 英人は拳を弾いて間合いをとり、『英雄変化』の準備に入った。

 他所でも殺し合いが始まっている以上、あまり時間は掛けていられない。

 ならば、


「助けてくれよおおおおっ!」

「殺したくない、殺したくないっ!」


(かつての仲間の力を借りるのが、最適解……!)


「『英雄変化トランスヒーロー・オン無敵の魔剣士ナイト・オブ・インヴィンシブル!』」


 だが次の瞬間、大和重成の持つ『弱化じゃっか』の力はその全てを無力化した。

 筋力が弱まり、英人の周囲で参加者たちは続々と倒れていく。


「参加者たちが、倒れた?」


 思わぬ光景に一瞬呆けるレックスだったが、その隙を見逃す英人ではない。

 がら空きとなった腹部に正拳突きを叩き込んだが、


「な……!?」


 普通であれば背中まで突き破る程に強化された拳が、数センチ程しかめり込まなかった。

 自身の攻撃が、効かない。

 焦る英人に追い打ちを掛けるように上から声が響く。


「俺の鱗は、特別製だ。

 触れただけで魔法による効力は大いに弱まるし、弱体化デバフの類はたとえ『異能』だろうと弾き返す」


「は……そりゃすげぇ」


 答えながら、英人の頬に汗が伝った。

 確かに魔法による攻撃と防御を弱体化出来るというなら、これまでの並外れた膂力とタフネスの説明はつく。

 だが問題は、どう倒すかということ。


(パッと思いつく範囲だと、素の身体能力で打ち勝つもしくは『異能』による物理攻撃の二択か……時間が掛かるな、こいつは)


 たとえ魔法が使えずとも『異世界』にて鍛え上げてきた身体がある以上、対等以上に渡り合うことは可能だ。

 しかしそれでは決め手がない。

 何故なら自身の『異能』は『再現』。この力はあくまで能力のコピーや技術の模倣、そして肉体の再生が主であって、それ自体が直接攻撃に使えるものではない。

 さらに肉体の再生に関しては、上級種のリザードマンも高い再生能力を持っている。


 必然、英人が取れる選択肢は


(飛翔の『最強の戦士ウォリアー・オブ・ストロンゲスト』、もしくは創二さんの『生成』――!)


 『英雄変化トランスヒーロー』は、英人の扱う技でもトップクラスに消費が大きい。

 長期戦の、それも序盤で連発するのは正直言って下策である。

 だが一秒浪費するごとに死人が増えるこの状況で四の五は言っていられない。


「速攻でカタをつける……!」


 腹を括り、英人が左腕を再び構えた時。


「――あら、お困りのようですわね?」


「お前は――」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 同刻、東京都庁。


「……おや?」


 スクリーンの前で、有馬は意外そうに眉を上げた。

 『使徒』たちの活躍に、英人の奔走、ここまでは当然に予想の範疇。

 しかし六つのタブに広がる光景は、それを僅かに超えていた。



【新宿歌舞伎町】



「ハッ、ハハハハハハハ!

 さすが、歌舞伎町ここは悪人どもをよく引き寄せるな!

 英雄として、血沸き肉躍る! 踊るぞ!」


 連邦共和国『国家最高戦力エージェント・ワン』、ギレスブイグ=フォン=シュトゥルム。



【北新宿、大久保通り付近】


「……アンドレイ=シャフライ、だな?」


「…………あぁ?」


 連合王国の『国家最高戦力エージェント・ワン』、ケネス=シャーウッド。



【新宿南口、バスタ新宿付近】



「……おや、貴方がたは?

 見たところ警察官のようですが」


「あいにく今ウチの『国家最高戦力エージェント・ワン』は調子が悪くてねぇ。

 代わりに命、張らせてもらうよ」


 警察庁直属、『異能課』。

 そして――


【新宿大ガード下】


「ミシェル=クロード=オートゥイユ!」


「フフ、御機嫌ようムッシュー・ヒデト」


 第五共和国『国家最高戦力エージェント・ワン』、ミシェル=クロード=オートゥイユ。


 この世界が誇る最高戦力たちが、『使徒』とマッチアップする形で出現していた。

 彼等の連携はむろん想定していたが、ポイント設定の関係もあってここまで手際よく現れてくるとは思っていなかった。

 明らかに、こちらの動きを読んでいる。


 もしや、と思い振り返ると、



「…………よくここが分かったね、年の功って奴?」


「貴様が言えた義理ではないな、『悪魔デビル』よ」


 煌びやかに輝く金髪に、グレーのスーツ。

 合衆国『国家最高戦力エージェント・ワン』、リチャード・L・ワシントン――この世界における最強の男が、そこに立っていた。


「えーでもこういうのって段階を経るものじゃない? ほら僕いちおうボスだし。

 まずは街の混乱をどうにかするってのが第一でしょ、元『英雄』みたいにさ」


「小難しい規則ルールを並べ立てた所で、所詮は我々『世界』と貴様等の命の取り合い。

 ならば最初からこうした方が分かりやすいだろう、違うか?」


 リチャードは静かに、銀製の銃を構える。


「あの会談での凶行が失敗だったな、『悪魔デビル』よ。

 おそらくは耳目を集める為だったのだろうが、お陰で各国上層部は打倒『サン・ミラグロ』の元に意志を統一。

 ……貴様等は、喧嘩を売る相手を見誤ったのだ」

 

「……へぇ」


 対する有馬は静かに目を細め、椅子から立ち上がった。


 ここは、日本の首都を司る行政庁の最上階。

 そのすぐ下では今も職員が慌ただしく行き交うが、今は誰ひとりとして二人の存在に気付くことはない。

 ここは、そういう風に変えられた空間だった。


「――国連憲章第43条。

 うち先程、これに基づく兵力提供協定が安全保障理事会にて決議された。

 つまり、これからはひとつに統一された軍が貴様等を駆逐する。

 ……まぁ、たった七人だがな」


 それは制度としてはありながらも、歴史上存在した瞬間のなかった軍隊。

 しかし今、それは最小かつ最強の人員を以て誕生する。

 その名も――


「国連軍を発動する」


 引き金は、静かに引かれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういう意味のサブタイトルでしたか。 てっきり、Mマンのことかと期待してました(笑)
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